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2016年7月24日 (日)

滝口雅子を知っていますか?/「蒼い馬」から「水炎」へ

(前回からつづく)

 

 

 

 

 

東洋牧場には、乳牛が5、60頭、軍供出用の馬が10頭近く放牧されていたという。牧場の丘から丘

へ、馬に乗って駆けぬけ、ずんずんこちらに向かってくる少女の姿が見えてくる。

――と詩人、白井知子は「新編滝口雅子詩集」巻末の解説に記しています。(「海底をくぐった瞳――滝

口雅子の詩を読む」)

 

東洋牧場は

滝口雅子の養父・滝口松治が朝鮮の京城で経営していた牧場でした。

 

「蒼い馬」のモチーフが

ここにあるとする詩人・白井知子の想像の所産ですが

最近(2002年)になって連絡が取れるようになった雅子の姪に取材して

それまで知られていなかった雅子の生活が

新たに明らかになりました。

 

この記述に続けて

牧場を営む滝口夫妻には子どもがなく、雅子を養女にして間もなく、松治さんの実兄の子ども、つまり甥

を養子に迎えている。戸籍上の滝口雅子の兄にあたる人で、由紀さんの父親である。

 

養女雅子と、あらたに養子に迎えたしっかり者の甥を結婚させ、牧場を継がせるつもりであったという。

しかし、雅子の方は反発する。

――とあるのにぶつかって

滝口雅子の心境をより具体的に想像することが可能になります。

 

そりゃあそうだ!

意にそぐわない結婚を

詩人が受け入れることは到底できまいと

同情の念に似た感情をもって推し測ることができます。

 

(※「由紀さん」とあるのは、白井知子が取材した雅子の姪のこと。滝口雅子の後見人を探す役所が、

戸籍をたどって探し当てたことが記されている。編者。)

 

 

こうした事情(背景)が

滝口雅子を朝鮮脱出の決断へと導いていった

一因であることを知ります。

 

やり遂げたかった学業を断念し

裁縫と生け花に明け暮れ

肺門淋巴腫脹という病気に罹ってしまう……。

 

大陸(中国)では

満州事変(1931年)以来、不穏な情勢が続いているし

日本からは2.26事件のニュースが伝わってくる……。

 

小学校で勉学を共にしたA君には赤紙(召集令状)が届いたし

ほかのクラスメートも17歳になっているから

いずれ召集されるであろう……。

 

そんな詩人のこころを満たすものが

朔太郎の詩集「氷島」であり

犀星の「愛の詩集」であり

宮沢賢治の「春と修羅」であって必然でした。

 

裁縫、生け花のけいこの合間に

そっとこれらを盗み読む時間はあったでしょうし

病気になっては、じっくり読む時間が手に入ったのかもしれません。

 

 

「歴史 Ⅰ海への支度」に現れる

前よりもやせてせきとめられた激しい流れ

――という詩行が

「蒼い馬」に書き込まれたのもまた必然でした。

 

 

「蒼い馬」はその後

どのような足どりを残したのでしょうか?

 

詩集には、海を扱った詩が5、6篇ありますが

「水炎」は「歴史」と並んで

海3部作と呼んで可能な作品です。

 

 

水炎

 

目をひらくと 海の底にいた

いつ 地上の歩みをふみはずしたのか

いつか地上が終りになるな と思ったことが

いま本当のことになったな

すきとおった薄い何枚もの水は

あとからあとからかぶさってきて

それは 瞳の上に

愛情やいろいろな感情の幕が

すべりおりてくるのに似ていた

さびしくて寒かった地上でも

はっきり目をあいていたのだから

水の底を進むときも 目をあいて

水圧で目が痛んでも 目をあいて

酸素の少い曇った地上では

人と人のあいだに たびたび夜がきて

人間から出る<いのちの線>がもつれたり

まっすぐにものを考えることも

生きるためには 差支えたり

それが終りになったのは

あたらしい別のものがくるのかな

 

岩や小石にからんだ海藻は

水の炎になって延びる

 

(土曜美術社出版販売「新編滝口雅子詩集」より。)

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 

 

 

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