中原中也の鎌倉/「在りし日の歌」清書の前後/「正午」の風景
「正午 丸ビル風景」は
「文学界」1937年(昭和12年)10月号(発行10月1日付け)に発表されました。
印刷日の9月10日から逆算すると
同年8月中旬が制作日と推定されています。
東京駅丸の内の風景は
故郷・山口に帰省する時の始発駅ですから
詩人には見慣れたものであったでしょうが
「正午」に歌われた風景は
鎌倉駅で乗車して
横須賀線に揺られて上京した時に見たものと考えるのが自然です。
◇
正午
丸ビル風景
ああ12時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ
ぞろぞろぞろぞろ出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
月給取(げっきゅうとり)の午休(ひるやす)み、ぷらりぷらりと手を振って
あとからあとから出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
大きなビルの真ッ黒い、小ッちゃな小ッちゃな出入口
空はひろびろ薄曇(うすぐも)り、薄曇り、埃(ほこ)りも少々立っている
ひょんな眼付(めつき)で見上げても、眼を落としても……
なんのおのれが桜かな、桜かな桜かな
ああ12時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ
ぞろぞろぞろぞろ出てくるわ、出てくるわ出てくるわ
大きなビルの真ッ黒い、小ッちゃな小ッちゃな出入口
空吹く風にサイレンは、響き響きて消えてゆくかな
(「新編中原中也全集」第1巻「詩Ⅰ」より。新かな・洋数字に変えました。編者。)
◇
鎌倉・寿福寺敷地内の住まいから上京し
これから都心部への用事を果たそうとする矢先に見た時の
東京駅・丸の内の風景でしたが
この風景の向うに
故郷・山口はあり
現住地・鎌倉はありました。
この風景を見る詩人に
さらば東京! さらば青春!
―― の声が聞こえ始めていました。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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