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2016年10月28日 (金)

中原中也の鎌倉/「在りし日の歌」清書の前後/「正午」の風景

「正午 丸ビル風景」は


「文学界」1937年(昭和12年)10月号(発行10月1日付け)に発表されました。

 

 

印刷日の9月10日から逆算すると


同年8月中旬が制作日と推定されています。

 

東京駅丸の内の風景は


故郷・山口に帰省する時の始発駅ですから


詩人には見慣れたものであったでしょうが


「正午」に歌われた風景は


鎌倉駅で乗車して


横須賀線に揺られて上京した時に見たものと考えるのが自然です。

 

 



 

 

正午     


    
丸ビル風景  



 

ああ12時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ


ぞろぞろぞろぞろ出てくるわ、出てくるわ出てくるわ


月給取(げっきゅうとり)の午休(ひるやす)み、ぷらりぷらりと手を振って


あとからあとから出てくるわ、出てくるわ出てくるわ


大きなビルの真ッ黒い、小ッちゃな小ッちゃな出入口


空はひろびろ薄曇(うすぐも)り、薄曇り、埃(ほこ)りも少々立っている


ひょんな眼付(めつき)で見上げても、眼を落としても……


なんのおのれが桜かな、桜かな桜かな


ああ12時のサイレンだ、サイレンだサイレンだ


ぞろぞろぞろぞろ出てくるわ、出てくるわ出てくるわ


大きなビルの真ッ黒い、小ッちゃな小ッちゃな出入口


空吹く風にサイレンは、響き響きて消えてゆくかな

 

 

(「新編中原中也全集」第1巻「詩Ⅰ」より。新かな・洋数字に変えました。編者。)

 

 



 

 

鎌倉・寿福寺敷地内の住まいから上京し


これから都心部への用事を果たそうとする矢先に見た時の


東京駅・丸の内の風景でしたが


この風景の向うに


故郷・山口はあり


現住地・鎌倉はありました。

 

この風景を見る詩人に

さらば東京! 
さらば青春!

―― の声が聞こえ始めていました。

 



 

 

途中ですが


今回はここまで。

 

 

 

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