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2016年10月28日 (金)

中原中也の鎌倉/「在りし日の歌」清書の前後/「夏日静閑」の風景

 

「正午 丸ビル風景」が「文学界」に発表されたのは


1937年(昭和12年)10月号。

 

 

店頭には8月末には出回るでしょうか。

 

 

同じころに書かれた詩に「夏日静閑」があり


「文芸汎論」10月特大号に発表されました。

 

 

詩篇末尾に「1937、8、5」の日付があります。

 

 

 

 

夏日静閑

 

 


暑い日が毎日つづいた。


隣りのお嫁入前のお嬢さんの、


ピアノは毎日聞こえていた。


友達はみんな避暑地(ひしょち)に出掛け、


僕だけが町に残っていた。


撒水車(さんすいしゃ)が陽に輝いて通るほか、


日中は人通りさえ殆(ほと)んど絶えた。


たまに通る自動車の中には


用務ありげな白服の紳士が乗っていた。


みんな僕とは関係がない。


偶々(たまたま)買物に這入(はい)った店でも


怪訝(けげん)な顔をされるのだった。


こんな暑さに、おまえはまた


何条(なんじょう)買いに来たものだ?


店々の暖簾(のれん)やビラが、


あるとしもない風に揺れ、


写真屋のショウインドーには


いつもながらの女の写真。


              1937、8、5

 


(「新編中原中也全集」第1巻「詩Ⅰ」より。新かな・洋数字に変えました。編者。)

 

 

 

 

この詩の夏も


鎌倉の夏と読んで間違いないことでしょう。

 

 

鎌倉の夏であると


読まねばならないということではありませんが。

 

 

 

 

隣りのお嫁入前のお嬢さん


彼女が弾くピアノ


僕だけが町に残っていた


撒水車(さんすいしゃ)が陽に輝いて通る


人通りさえ殆(ほと)んど絶えた日中


たまに通る自動車


用務ありげな白服の紳士が乗っている

 

買物にはいった店


怪訝(けげん)な顔にあう


店の暖簾(のれん)やビラ


あるとしもない風


写真屋のショウインドー


いつもながらの女の写真


……

 

 

みんな鎌倉の町の匂いがしませんか?

 

 

 

 

目に見えるもの


触れるもの


聞こえるもの


出会うもの。

 

 

みんな僕とは関係がない。


――のです。

 

 

 

 

「夏日静閑」は


生前発表された詩の


最も最後のものです。

 

 

 

 

途中ですが


今回はここまで。

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