新川和江・抒情の源流/「あこがれ」のヒバリ
ヒバリをうたった詩が
もう一つあります。
他にもあるかもしれませんが。
◇
あこがれ
どんな一途(いちず)なあこがれが
あのように
ヒバリを飛翔(ひしょう)させるのでしょうか
深い井戸に落ちこむように
空のふかみにはまってゆく
どんなせつない願いごとが
あのように
ヒバリののどをふるわせるのでしょうか
胸も裂(さ)けよとばかり
空いっぱいに歌をひろがらせて
天までゆかなくとも
餌(え)は むぎばたけの中にあると
歌わなくとも
巣づくりはできると
知っていながら 知っていながら
(ハルキ文庫「新川和江詩集」より。原作のルビは( )で示しました。編者。)
◇
この詩は
ハルキ文庫では
幼年・少年少女詩篇の中に配置されています。
詩人は
かなり早い時から
児童や少年少女向けの詩を書きはじめ
童詩、童謡、幼年詩、少年少女詩を発表してきました。
膨大な作品の中の
この「あこがれ」は一つです。
◇
この詩も
ヒバリをはじめ遠景でとらえ
大空の奥がへ舞い上がるヒバリの様子を、
深い井戸に落ちこむように
空のふかみにはまってゆく
――とうたいはじめて
最終連、
歌わなくとも
巣づくりはできると
知っていながら 知っていながら
――とヒバリそのものになります。
同一化、一体化が起こります。
◇
ヒバリは
あこがれであるけれど
詩人はここでも
ヒバリになっています。
面白いですね。
このあこがれですが
和泉式部の
物おもへば沢の蛍も我が身よりあくがれいづる魂かとぞみる
――を当然、意識しているのでしょうね。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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