新川和江・抒情の源流/詩人の来歴・その5/幼年・少年少女詩篇「秋のいちばんさいしょの風は」
「明日(あした)のりんご」Ⅰから
もう一つ。
40篇の終りの方の詩には
秋が訪れています。
◇
秋のいちばんさいしょの風は
秋の
いちばんさいしょの風は
ほそい草を いっぽんいっぽん
ていねいにより分けて吹く
ながい休暇(きゅうか)に
とりとめもなくぼやけてしまった
わたしの心にも
くっきりと 道をつけてくれる
はいって行こう その道をたどって
心のさらに深い場所へ――
風が遠くの谷間の村の
ちいちゃな まずしいリンゴの木にも
忘れずに
美しいみのりをうながしに行くように――
(花神社「新川和江全詩集」中の「明日のりんご」より。)
◇
炎暑でぐったりしていた
野の草に
秋風が初めて吹く頃――。
名もない草が
俄然、輪郭をくっきりさせて勢いづく。
詩人の眼差しは
風のやわらかさ(やさしさ)に向かい
それを
ほそい草を いっぽんいっぽん
ていねいにより分けて吹く
――と歌います。
◇
この眼差し(観察眼)の繊細さに感心させられますが
風がわたしの心にも
くっきりと道をつけてくれる、と歌い継ぐところで
この詩は
単なる自然描写に終わらない領域に入ります。
風がつくったその道をたどって
心のさらに深い場所へ
はいって行こう
――とこの詩は呼びかけます。
わたしの心に向かって。
◇
詩集タイトルは
この詩から生まれたようですね。
ちいちゃな
まずしいリンゴの木に
美しい実りがもたらされるように、と祈る詩(人)が呼びかけるのは
わたしです。
同時に
中学生ほどの若者たちです。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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