新川和江・抒情の源流/「おしまいのキス」から「五月ひとり」へ
「おしまいのキス」は
「井の頭公園」の一つ前に配置されています。
この詩こそは
恋の終りの日を正面に見据えて
最期(さいご)のキスを希望する歌です。
お水をください
口うつしに飲ませてください
死んでいくひとにするように
そうするよりほかないように 仕方のないやり方で
――と最期の願いが歌いはじめられます。
◇
ここに、しかし
あのひとは現れません。
あなたやあの方も呼び出されずに
気持ちをまっすぐに歌ったような形の詩です。
◇
恋人は
次の「井の頭公園」や
最終詩「五月ひとり」にも現れますから心配無用なのですが
真っ暗のわたしの内側が明かされて
胸が塞がる思いになります。
この詩も
愛の歌の一つです。
◇
15歳で詩作をはじめ
およそ70年間休むことなく歌い続けてきた愛の歌は
音色は多少変わっても
現在も歌い継がれています。
「千度呼べば」(2013年)の最終詩は
一筆書きのような
力味(りきみ)のない
衒(てら)いも技(わざ)の跡もないような
美しい短詩です。
◇
五月ひとり
苺(いちご)を
食べています
あなたとは
苺は 食べなかった
とおもいながら
ひとつぶひとつぶ
スプーンでつぶして
苺を
食べています
(「千度呼べば」より。原作のルビは( )で示しました。編者。)
◇
途中ですが
今回はここまで。
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