新川和江・抒情の源流/「ブック・エンド」の恋歌「冬のふらぐめんと」より・その2
「陽射し」は2連の詩です。
◇
第1連。
「陽射し」の陽は
冬至前後の太陽でしょうか。
高くのぼらない陽が気になる季節(とき)。
詩人は
ふと、太陽と地球の位置の関係を
測ろうとします。
上体を傾ければわかるかも、という思いつきに
ユーモアがあります。
◇
第2連の
主語は陽射し。
射しこんできて、どうなるか――。
ためらっている、のです。
ここのところを押さえるために
第2連をもう一度
引いておきます。
◇
陽射しが
居間の奥まで射しこんできて
ひとに坐って欲しかった椅子の
とうとう坐って貰えずじまいになった椅子の
猫脚の手前あたりで
ためらっている
(思潮社「ブック・エンド」より。)
◇
射しこんできて、と、
ためらっている、という
二つの述語の間にある3行の副詞句は
第1、第2行は椅子の由来(ゆらい)を語りつつ
第3行にかかっていく関係です。
第3行の猫脚のあたり、は
陽射しの射す場所を示す副詞句です。
散文的に考えれば――。
◇
詩は散文ではありませんから
一つの流体(液体)であるような
固体であるような
気体であるような
分離を許さない言葉の群れのようなものですから
分析はほどほどにしなければいけませんが
この詩の見事さは
分析してみれば自ずと納得がいくことでしょう。
このような分析に微動もしないで
詩は存在し続けるのですから。
◇
詩に流れる
引き締まった抒情の艶やかさ、美しさ。
何度繰り返して読んでも
飽きることがありません。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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