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2017年1月18日 (水)

中原中也が「四季」に寄せた詩/連作詩を構成する「或る男の肖像」

 

「或る男の肖像」も

「村の時計」がそうだったように

「或る夜の幻想」の構成詩である第4、5、6節をまとめて

一つの詩にしたものです。

 

「四季」1937年(昭和12年)3月号に初出し

「在りし日の歌」の「永訣の秋」に収録されました。

 

 

或る男の肖像

 

    1

 

洋行(ようこう)帰(がえ)りのその洒落者(しゃれもの)は、

齢をとっても髪に緑の油をつけてた。

 

夜毎(よごと)喫茶店にあらわれて、

其処(そこ)の主人と話している様はあわれげであった。

 

死んだと聞いてはいっそうあわれであった。

 

   2

       ――幻滅は鋼(はがね)のいろ。

  

髪毛の艶(つや)と、ランプの金との夕まぐれ

庭に向って、開け放たれた戸口から、

彼は戸外(そと)に出て行った。

 

剃(そ)りたての、頚条(うなじ)も手頸(てくび)も

どこもかしこもそわそわと、

寒かった。

 

開け放たれた戸口から

悔恨(かいこん)は、風と一緒に容赦(ようしゃ)なく

吹込(ふきこ)んでいた。

 

読書も、しんみりした恋も、

あたたかいお茶も黄昏の空とともに

風とともにもう其処にはなかった。

 

   3

 

彼女は

壁の中へ這入(はい)ってしまった。

それで彼は独り、

部屋で卓子(テーブル)を拭(ふ)いていた。

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えました。編者。)

 

 

ここに掲載したのは

「在りし日の歌」の「或る男の肖像」ですが

「四季」初出のものとの異同は

ほとんどありません。

 

「四季」では

4、5、6の番号をつけて

「或る夜の幻想」の構成節としました。

 

各節とも

番号の後にタイトルがつけてありました。

 

 

原詩「或る夜の幻想」は

この3節のほかに「村の時計」が第2節

さらに第1節の「彼女の部屋」と第3節「彼女」があり

合計6節の長い詩でした。

 

「四季」初出の「或る夜の幻想」に目を通せば

ビフォー&アフターがはっきり見えます

 

 

或る夜の幻想

 

1 彼女の部屋

 

彼女には

美しい洋服箪笥があった

その箪笥は

かわたれどきの色をしていた

 

彼女には

書物や

其の他色々のものもあった

が、どれもその箪笥に比べては美しくもなかったので

彼女の部屋には箪笥だけがあった

 

   それで洋服箪笥の中は

   本でいっぱいだった

 

   2 村の時計

 

村の大きな時計は、

ひねもす働いていた

 

その字板(じいた)のペンキは、

もう艶(つや)が消えていた

 

近寄って見ると、

小さなひびが沢山にあるのだった

 

それで夕陽が当ってさえか、

おとなしい色をしていた

 

時を打つ前には、

ぜいぜいと鳴った

 

字板が鳴るのか中の機械が鳴るのか、

僕にも、誰にも分らなかった

 

   3 彼女

 

野原の一隅には杉林があった。

なかの一本がわけても聳えていた。

 

或る日彼女はそれにのぼった。

下りて来るのは大変なことだった。

 

それでも彼女は、媚態を棄てなかった。

一つ一つの挙動は、まことにみごとなうねりであった。

 

   夢の中で、彼女の臍(おへそ)は、

   背中にあった。

 

4 或る男の肖像

 

洋行帰りのその洒落者は、

齢(とし)をとっても髪に緑のポマードをつけていた。

 

夜毎喫茶店にあらわれて、

其処の主人と話している様(さま)はあわれげであった。

 

死んだと聞いては、

いっそうあわれであった。

 

   5 無題

     ――幻滅は鋼(はがね)のいろ。

  

髪毛(かみげ)の艶(つや)と、ランプの金(きん)との夕まぐれ、

庭に向って、開け放たれた戸口から、

彼は戸外に出て行った。

 

剃(そ)りたての、頚条(うなじ)も手頸(てくび)も、

どこもかしこもそわそわと、

寒かった。

 

開け放たれた戸口から

悔恨は、風と一緒に容赦なく

吹込んでいた。

 

読書も、しんみりした恋も、

暖かい、お茶も黄昏の空とともに

風とともにもう其処にはなかった。

 

   6 壁

 

彼女は

壁の中へ這入ってしまった

それで彼は独り、

部屋で卓子(テーブル)を拭いていた。

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰ解題篇より。新かなに変えました。編者。)

 


 

第1連の「緑の油」が「緑のポマード」と変えられているのが

大きな変更です。

 
これは、第5連の、
髪毛(かみげ)の艶(つや)と、ランプの金(きん)との夕まぐれ、
――の効果を高めるための修正でしょう。

 

 
「四季」に

このような大作が載ることは

よくあることだったのでしょうか?

 

多分、珍しいことでした。

 

 

途中ですが 

今回はここまで。

 

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