中原中也が「四季」に寄せた詩/「帰郷」に吹く風
中原中也が「四季」に詩を初めて発表したのは
1933年(昭和8年)の夏号(7月20日発行)。
「四季」夏号というのは
春夏2号で終わった季刊「四季」の後(あと)の号で
第1次「四季」と呼ばれています。
「帰郷」「逝く夏の歌」「少年時」の3篇が
同時の発表でした。
◇
帰 郷
柱も庭も乾いている
今日は好(よ)い天気だ
椽(えん)の下では蜘蛛(くも)の巣が
心細そうに揺れている
山では枯木も息を吐(つ)く
ああ今日は好い天気だ
路傍(みちばた)の草影が
あどけない愁(かなし)みをする
これが私の故里(ふるさと)だ
さやかに風も吹いている
心置(こころおき)なく泣かれよと
年増婦(としま)の低い声もする
ああ おまえはなにをして来たのだと……
吹き来る風が私に云(い)う
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えました。編者。)
◇
この時期、「山羊の歌」は
本文のみ印刷されたものの
表紙など装丁、製本は出来ていない状態でした。
出版社も決まっておらず
発行されていなかったのです。
◇
終連に、
ああ おまえはなにをして来たのだと……
吹き来る風が私に云(い)う
――とある風は
第1詩集の発行もならない
この頃の心境と重なりますが
この状態は長く続いています。
「帰郷」は
1928年(昭和3年)に
音楽集団「スルヤ」の機関紙に掲載され
「スルヤ」第5回発表演奏会(1930年5月7日)で
バリトン独唱、長井維理(ういり)
ピアノ、内海誓一郎
チェロ、民谷宏で演奏されています。
(同上書解題篇。)
◇
途中ですが
今回はここまで。
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