中原中也が「四季」に寄せた詩/横浜もの「秋の一日」
中原中也が「四季」に発表した詩は
およそ30近くあります。
すべてが初出ではありませんが
「山羊の歌」にも収めていますから
長い付き合いであったことは確実です。
「むなしさ」と同じく「秋の一日」は
横浜を舞台にしていて
横浜ものと呼ばれる詩の一つです。
◇
秋の一日
こんな朝、遅く目覚める人達は
戸にあたる風と轍(わだち)との音によって、
サイレンの棲む海に溺れる。
夏の夜の露店の会話と、
建築家の良心はもうない。
あらゆるものは古代歴史と
花崗岩(かこうがん)のかなたの地平の目の色。
今朝はすべてが領事館旗(りょうじかんき)のもとに従順で、
私は錫(しゃく)と広場と天鼓(てんこ)のほかのなんにも知らない。
軟体動物のしゃがれ声にも気をとめないで、
紫の蹲(しゃが)んだ影して公園で、乳児は口に砂を入れる。
(水色のプラットホームと
躁(はしゃ)ぐ少女と嘲笑(あざわら)うヤンキイは
いやだ いやだ!)
ぽけっとに手を突込んで
路次(ろじ)を抜け、波止場(はとば)に出(い)でて
今日の日の魂に合う
布切屑(きれくず)をでも探して来よう。
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えました。編者。)
◇
最終連、
ぽけっとに手を突込んで
路次(ろじ)を抜け、波止場(はとば)に出(い)でて
――は
ベルレーヌやランボーの姿を彷彿(ほうふつ)とさせますが
この詩にみなぎる気だるさは
中也独特のもの。
この頃の気だるさのなかには
若々しさが漂います。
◇
中途ですが
今回はここまで。
« 中原中也が「四季」に寄せた詩/「むなしさ」のわれ | トップページ | 中原中也が「四季」に寄せた詩/「帰郷」に吹く風 »
「057中原中也と「四季」」カテゴリの記事
- 中原中也が「四季」に寄せた詩・番外編/立原道造の「別離」という追悼(2017.02.03)
- 中原中也が「四季」に寄せた詩・番外編/三好達治の「在りし日の歌」批評・その3(2017.02.01)
- 中原中也が「四季」に寄せた詩・番外編/三好達治の「在りし日の歌」批評・その2(2017.01.30)
- 中原中也が「四季」に寄せた詩・番外編/「老いたる者をして」/三好達治の否定と肯定・その4(2017.01.29)
- 中原中也が「四季」に寄せた詩・番外編/「正午」/三好達治の否定と肯定・その3(2017.01.28)
« 中原中也が「四季」に寄せた詩/「むなしさ」のわれ | トップページ | 中原中也が「四季」に寄せた詩/「帰郷」に吹く風 »
コメント