中原中也が「四季」に寄せた詩/「逝く夏の歌」の戦争
「四季」に初めて寄せた詩の一つが
「逝く夏の歌」です。
「帰郷」とともに「逝く夏の歌」は
「山羊の歌」の「初期詩篇」に収録されています。
「帰郷」「逝く夏の歌」「少年時」は
「山羊の歌」に収録されていますが
「四季」に発表したときに
「山羊の歌」は出版されていません。
「四季」への発表の方が
先になりました。
◇
逝く夏の歌
並木の梢(こずえ)が深く息を吸って、
空は高く高く、それを見ていた。
日の照る砂地に落ちていた硝子(ガラス)を、
歩み来た旅人は周章(あわ)てて見付けた。
山の端(は)は、澄(す)んで澄んで、
金魚や娘の口の中を清くする。
飛んで来るあの飛行機には、
昨日私が昆虫の涙を塗っておいた。
風はリボンを空に送り、
私は嘗(かつ)て陥落(かんらく)した海のことを
その浪(なみ)のことを語ろうと思う。
騎兵聯隊(きへいれんたい)や上肢(じょうし)の運動や、
下級官吏(かきゅうかんり)の赤靴(あかぐつ)のことや、
山沿(やまぞ)いの道を乗手(のりて)もなく行く
自転車のことを語ろうと思う。
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えました。編者。)
◇
「山羊の歌」の「初期詩篇」には
意外に知られていないことですが
「戦争」がよく現われます。
この詩は
陥落した海とあることから
日露戦争の旅順陥落を想像できますが。
2番詩「月」に、胸に残った戦車の地音
3番詩「サーカス」に、茶色い戦争ありました
5番詩「朝の歌」に、鄙(ひな)びたる 軍楽の憶い
――などとあるのも
戦争にほかなりません。
◇
冒頭詩「春の日の夕暮」の
馬嘶くか――嘶きもしまい
――の馬も、
4番詩「春の夜」の
夢の裡(うち)なる隊商のその足竝(あしなみ)もほのみゆれ
――の隊商も、
6番詩「臨終」の
黒馬の瞳の光
――の黒馬も
戦争の馬かもしれません。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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