中原中也が「四季」に寄せた詩/「みちこ」の衝撃
1935年(昭和9年)10月15日付けで発行された第2次「四季」創刊号に
「みちこ」は発表されています。
「白痴群」第5号(1930年)にすでに発表したものの
再発表でした。
◇
みちこ
そなたの胸は海のよう
おおらかにこそうちあぐる。
はるかなる空、あおき浪、
涼しかぜさえ吹きそいて
松の梢(こずえ)をわたりつつ
磯白々(しらじら)とつづきけり。
またなが目にはかの空の
いやはてまでもうつしいて
竝(なら)びくるなみ、渚なみ、
いとすみやかにうつろいぬ。
みるとしもなく、ま帆片帆(ほかたほ)
沖ゆく舟にみとれたる。
またその顙(ぬか)のうつくしさ
ふと物音におどろきて
午睡(ごすい)の夢をさまされし
牡牛(おうし)のごとも、あどけなく
かろやかにまたしとやかに
もたげられ、さてうち俯(ふ)しぬ。
しどけなき、なれが頸(うなじ)は虹にして
ちからなき、嬰児(みどりご)ごとき腕(かいな)して
絃(いと)うたあわせはやきふし、なれの踊れば、
海原(うなばら)はなみだぐましき金にして夕陽をたたえ
沖つ瀬は、いよとおく、かしこしずかにうるおえる
空になん、汝(な)の息絶(た)ゆるとわれはながめぬ。
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えました。編者。)
◇
「みちこ」も
「山羊の歌」第3章にあたる章「みちこ」の
冒頭詩として配置されているのは
「少年時」と同じような位置づけです。
「四季」のイメージに
ランボー(の苛烈な青春)を打ち込み
女性の肉体を賛美したような「みちこ」を打ち込んで
反応(衝撃)はどのようなものだったのでしょうか。
◇
季刊から月刊となった第2次「四季」は
堀辰雄、三好達治、丸山薫、津村信夫、立原道造の編集中枢5人に加え
あらたな編集同人に、井伏鱒二、萩原朔太郎、竹中郁、田中克己、辻野久憲、中原中也、
桑原武夫、神西清、神保光太郎の9人を迎えました。
第2次「四季」は敗戦の前年1944年に81号で終刊しますが
その間に、室生犀星、阪本越郎、大山定一、河盛好蔵、田中冬二、杉山平一、大木実、
高森文夫、呉茂一、山岸外史、保田與重郎、芳賀檀、伊東静雄、蔵原伸二郎らが同人と
して執筆、
同人以外からの寄稿もありました。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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