中原中也が「四季」に寄せた詩・追補/立原道造との交感/同人会で
立原道造には「1936年手帳」と呼ばれる創作ノートがあり
この手帳に
「或る不思議なよろこびに」のエピグラフとした
中原中也の詩と同じフレーズが
書き留められています。
それは次のようなものでした。
◇
§
四月十二日、午前九時
東京駅横須賀線プラットフォームにて、待つこと。
§
或る不思議なよろこびに――
戸の外の、寒い朝らしい気配を感じながら
私はおまへのやさしさを思ひ、また毒づいた人を思ひ出す
――中原中也
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰ「無題」解題中の参考文献より。)
◇
こちらは「或る不思議なよろこびに」のエピグラフよりも
中也の詩を忠実に記録(メモ)していますから
エピグラフよりも先に書かれたものでしょう。
この記録が書かれたころに
「或る不思議なよろこびに」は書かれ
書かれた詩は「四季」に発表され(6月号)
3月26日には「四季」同人会が初めて開かれました。
立原道造と中也は
銀座「はせ川」で行われたこの同人会に出席します。
このときのことが
堀辰雄の文章の中に残され有名になりました。
初対面の立原道造に
少し酔った中也が突っ込みます。
◇
やい、ガボリイ……やい、ガボリイ……」と呼んではしきりにからもうとしていた。おとなしい立原君はただもうびっくりしていたようだった。
それから数日後、立原君は僕のところに来て、はじめてジョルジュ・ガボリイの詩集を見ながら、「なあんだ、ガボリイって随分好い人なんですね」と安心したように言っていた。こう立原君が素直では、さすがの中原中也も顔負けである。/
立原君はしかし、中原君が毒づこうとしたような、ガボリイ好みの、「ご婦人向き」の詩人では断じてない。中原君のようにフランスの詩人のものばかり読んでいた人には、ちょっと似よりの詩人の見当のつかない、独逸のロマンティック直系の詩人である。
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰ解題篇より。「四季」第46号(昭和14年春季号)からの引用の引用です。/は省略の意。原文の歴史的仮名遣いを現代表記に改め、改行を加えました。編者。)
◇
作家・檀一雄が書いた「小説・太宰治」の中の
中也が太宰にからむシーンを
思わず連想してしまいますが
これは、第1回中原中也賞への推薦の言葉です。
フィクションと現実ほどの違いがあります。
◇
ガボリイは、「月下の一群」(堀口大学)に訳されている
ジョルジュ・ガボリーのことでフランスの詩人。
堀辰雄は
立原道造をドイツ・ロマン派直系の詩人と評しているのです。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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