中原中也が「四季」に寄せた詩/「少年時」の少年
「少年時」は
第1詩集の出版を計画した当初
詩集タイトルの一つとされていたほどに
中原中也のなかで価値の高いネーミング(言葉)でした。
それは
1、ランボーの翻訳(鈴木信太郎)の筆写稿の「少年時」
2、詩篇の清書用のノート「ノート少年時」
3、未発表詩篇「少年時」(母は父を送り出すと)
4、本篇「少年時」
――と使われていることからも見て取れます。
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰ解題篇。)
◇
この「少年時」が
詩集「山羊の歌」で
「初期詩篇」に次ぐ第2章の題に採用されましたから
五つ目の使用になります。
◇
少年時
黝(あおぐろ)い石に夏の日が照りつけ、
庭の地面が、朱色に睡(ねむ)っていた。
地平の果(はて)に蒸気が立って、
世の亡ぶ、兆(きざし)のようだった。
麦田(むぎた)には風が低く打ち、
おぼろで、灰色だった。
翔(と)びゆく雲の落とす影のように、
田の面(も)を過ぎる、昔の巨人の姿――
夏の日の午過(ひるす)ぎ時刻
誰彼(だれかれ)の午睡(ひるね)するとき、
私は野原を走って行った……
私は希望を唇に噛みつぶして
私はギロギロする目で諦(あきら)めていた……
噫(ああ)、生きていた、私は生きていた!
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えました。編者。)
◇
自身の少年時代を
ランボーの詩の中に見つけた驚きが
興奮がちにこの詩に刻まれている、と思えるほどです。
詩内容はランボーの「少年時」の強い影響下にありますが
しかし、この詩の少年は
まぎれもなく中也少年です。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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