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2017年2月16日 (木)

立原道造の詩を読む/「暁と夕の詩」の夕の歌「或る風に寄せて」

 

 

「失はれた夜に」がはじめ

 

「ある不思議なよろこびに」のタイトルで

 

中原中也の詩をエピグラフに引用していたという理由で

 

詩集「暁と夕の詩」をひもとくきっかけにして

 

詩集の後半部をざっと読んできました。

 

 

 

夜の闇をさまよう詩人は

 

朝の光りに辿りついたのでしょうか?

 

 

 

最終詩「Ⅹ 朝やけ」に至っても

 

夜は明けていないようでした。

 

 

 

前半部を読んでいきます。

 

 

 

 

 

 

Ⅰ 或る風に寄せて

 

 

 

おまへのことでいつぱいだつた 西風よ

 

たるんだ唄のうたひやまない 雨の昼に

 

とざした窗(まど)のうすあかりに

 

さびしい思ひを噛みながら

 

 

 

おぼえてゐた をののきも 顫(ふる)へも

 

あれは見知らないものたちだ……

 

夕ぐれごとに かがやいた方から吹いて来て

 

あれはもう たたまれて 心にかかつてゐる

 

 

 

おまへのうたつた とほい調べだ――

 

誰がそれを引き出すのだらう 誰が

 

それを忘れるのだらう……さうして

 

 

 

夕ぐれが夜に変るたび 雲は死に

 

そそがれて来るうすやみのなかに

 

おまへは 西風よ みんななくしてしまつた と

 

 

 

(岩波文庫「立原道造詩集」より。)

 

 

 

 

 

 

【現代表記】

 

 

 

Ⅰ 或る風に寄せて

 

 

 

おまえのことでいっぱいだった 西風よ

 

たるんだ唄のうたいやまない 雨の昼に

 

とざした窗(まど)のうすあかりに

 

さびしい思いを噛みながら

 

 

 

おぼえていた おののきも 顫(ふる)えも

 

あれは見知らないものたちだ……

 

夕ぐれごとに かがやいた方から吹いて来て

 

あれはもう たたまれて 心にかかっている

 

 

 

おまえのうたった とおい調べだ――

 

誰がそれを引き出すのだろう 誰が

 

それを忘れるのだろう……そうして

 

 

 

夕ぐれが夜に変るたび 雲は死に

 

そそがれて来るうすやみのなかに

 

おまえは 西風よ みんななくしてしまった と

 

 

 

 

 

 

西風は秋風でしょうか?

 

夕暮れのたびに陽の沈む方から吹いてくる。

 

 

 

どこからか あまり上手ではない(のんびりとした)歌が聞こえてきます。

 

雨の昼どき。

 

 

 

窓を閉ざしたうすらあかりの部屋で

 

僕はさびしい思いを噛みしめている。

 

 

 

 

 

 

おぼえていた おののきも 顫(ふる)えも

 

あれは見知らないものたちだ……

 

 

 

 

 

 

こういう詩行に

 

少し戸惑うのは致し方ないことでしょう。

 

 

 

おぼえていた、は

 

前連の、噛みながら、から連続しながら

 

 

 

おぼえていた、と

 

見知らない、と齟齬(そご)する関係。

 

 

 

見知らない(=初めてである)に重心をおいて

 

読みます、とりあえず。

 

 

 

夕暮れどきに日没する方角から吹いてくる風が

 

僕のこころを支配しています。

 

 

 

 

 

 

おまえ=西風が歌った遠い調べが

 

どんな調べ(メロディー)だったのか。

 

 

 

さびしい思いを掻き立てるのだけは

 

確かです。

 

 

 

誰が吹かせるのだろう?

 

そして

 

誰が忘れるのだろう?

 

 

 

 

 

 

夕暮れは夜に変わるたびに

 

雲は消え失せ

 

次第に濃くなってくる薄闇の中に

 

おまえ、西風よ

 

寂しさも憂(うれ)わしさもなにもかも

 

みんな失くしてしまった――。

 

 

 

 

 

 

3度現れる「おまえ」が

 

全て西風なのか。

 

 

 

女性の影が

 

見えなくもない。

 

 

 

女性でなくてはならないものでもなく。

 

 

 

 

 

 

つづく。

 

 

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