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2017年2月22日 (水)

立原道造の詩を読む/「暁と夕の詩」の5番詩「真冬の夜の雨に」

 

 

「未成年」は1935年創刊の同人誌で

 

1936年夏に廃刊になりました。

 

 

 

立原道造も創刊同人として参加していたが

 

同人の寺田透と立原とが対立したことが廃刊の原因でした。

 

 

 

その「未成年」第6号(1936年5月号)に発表したのが

 

「真冬の夜の雨に」でしたが

 

初出は物語「ちひさき花の歌」の「結びのソネット」に引用されました。

 

 

 

その時、副題に

 

「暁の夕の詩。第5番。」とありました。

 

(※「暁と夕の詩」の間違いらしいのですが、原文ママとするならいのようです。)

 

 

 

 

 

 

Ⅴ 真冬の夜の雨に

 

 

 

あれらはどこに行つてしまつたか?

 

なんにも持つてゐなかつたのに

 

みんな とうになくなつてゐる

 

どこか とほく 知らない場所へ

 

 

 

真冬の雨の夜は うたつてゐる

 

待つてゐた時とかはらぬ調子で

 

しかし帰りはしないその調子で

 

とほく とほい 知らない場所で

 

 

 

なくなつたものの名前を 耐へがたい

 

つめたいひとつ繰りかへしで――

 

それさへ 僕は 耳をおほふ

 

 

 

時のあちらに あの青空の明るいこと!

 

その望みばかりのこされた とは なぜいはう

 

だれとも知らない その人の瞳の底に?

 

 

 

(岩波文庫「立原道造詩集」より。)

 

 

 

 

 

 

【現代表記】

 

 

 

Ⅴ 真冬の夜の雨に

 

 

 

あれらはどこに行ってしまったか?

 

なんにも持っていなかったのに

 

みんな とうになくなっている

 

どこか とおく 知らない場所へ

 

 

 

真冬の雨の夜は うたっている

 

待っていた時とかわらぬ調子で

 

しかし帰りはしないその調子で

 

とおく とおい 知らない場所で

 

 

 

なくなったものの名前を 耐えがたい

 

つめたいひとつ繰りかえしで――

 

それさえ 僕は 耳をおおう

 

 

 

時のあちらに あの青空の明るいこと!

 

その望みばかりのこされた とは なぜいおう

 

だれとも知らない その人の瞳の底に?

 

 

 

 

 

 

第1連

 

なんにも持っていなかったのに

 

みんな とうになくなっている

 

――という

 

持っていなかったのに、なくなっている

 

――齟齬(そご)や

 

 

 

第2連

 

待っていた時とかわらぬ調子で

 

しかし帰りはしないその調子で

 

――という

 

待っていた時の調子が、帰りはしない調子で

 

――と飛躍になるような

 

こういう詩法(レトリック)を

 

詩人は完成の域に達成しています。

 

 

 

 

 

 

第3連

 

なくなったものの名前を 耐えがたい

 

――という時の、耐えがたい、も

 

つめたいひとつ繰りかえしで――

 

――という次行への連なりで捉えないと

 

いかにも矛盾したようなことになりますが

 

これも完成されたレトリックになりました。

 

 

 

 

 

 

前作「眠りの誘ひ」の

 

物語的な(一方向へ流れる時間の)詩の作り方を

 

わざと壊すような詩行の流れです。

 

 

 

 

 

 

(世界中はさらさらと粉の雪)であったのが

 

真冬の夜の雨が歌っているのですし。

 

 

 

あれらは、どこかに行ってしまったのですし。

 

 

 

耐えがたい

 

冷たい一つ繰り返しですし。

 

 

 

僕は、耳をおおいます。

 

 

 

 

 

 

それにしても最終行

 

だれとも知らない その人の瞳の底に?

 

――の、その人は謎です。

 

 

 

うしなった女性でしょうか。

 

 

 

 

 

 

あの青空の明るいこと!

 

――と歌わせる光のようなものが

 

詩人に見えていたことが

 

最終連3行の、この入り組んだレトリックの背後から

 

浮んでくるようではあります。

 

 

 

 

 

 

人間がそこでは金属となり結晶質となり天使となり、生きたる者と死したる者との中間者と

 

して漂う。死が生をひたし、僕の生の各瞬間は死に絶えながら永遠に生きる。

 

 

 

 

 

 

「風信子🉂」の一節がよみがえりますが

 

この詩に直(じか)に関係するかは不明です。

 

 

 

 

 

 

つづく。

 

 

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