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2017年2月10日 (金)

立原道造の詩を読む/第2詩集「暁と夕の詩」から「溢れひたす闇に」

 

 

第2詩集「暁と夕の詩」の「失はれた夜に」の次にあるのが

 

7番詩「溢れひたす闇に」です。

 

 

 

 

 

 

Ⅶ 溢れひたす闇に

 

 

 

美しいものになら ほほゑむがよい

 

涙よ いつまでも かわかずにあれ

 

陽は 大きな景色のあちらに沈みゆき

 

あのものがなしい 月が燃え立つた

 

 

 

つめたい!光にかがやかされて

 

さまよひ歩くかよわい生き者たちよ

 

己(おれ)は どこに住むのだらう――答へておくれ

 

夜に それとも昼に またうすらあかりに?

 

 

 

己は 嘗(かつ)てだれであつたのだらう?

 

(誰でもなく 誰でもいい 誰か――)

 

己は 恋する人の影を失つたきりだ

 

 

 

ふみくだかれてもあれ 己のやさしかつた望み

 

己はただ眠るであらう 眠りのなかに

 

遺された一つの憧憬に溶けいるために

 

 

 

(岩波文庫「立原道造詩集」より。)

 

 

 

 

 

 

【現代表記】

 

 

 

Ⅶ 溢れひたす闇に

 

 

 

美しいものになら ほほえむがよい

 

涙よ いつまでも かわかずにあれ

 

陽は 大きな景色のあちらに沈みゆき

 

あのものがなしい 月が燃え立った

 

 

 

つめたい!光にかがやかされて

 

さまよい歩くかよわい生き者たちよ

 

己(おれ)は どこに住むのだろう――答えておくれ

 

夜に それとも昼に またうすらあかりに?

 

 

 

己は 嘗(かつ)てだれであったのだろう?

 

(誰でもなく 誰でもいい 誰か――)

 

己は 恋する人の影を失ったきりだ

 

 

 

ふみくだかれてもあれ 己のやさしかった望み

 

己はただ眠るであろう 眠りのなかに

 

遺された一つの憧憬に溶けいるために

 

 

 

 

 

 

この詩は

 

立原道造が詩作と等しく創作に打ち込んでいた

 

物語の一つ「鮎の歌」(「新潮」1937年7月号)の

 

結びのソネットとしても登場します。

 

 

 

鮎は、信濃追分の本陣、永楽屋の孫娘で

 

弁護士、関一三の長女、関鮎子のこと。

 

 

 

恋人のような恋人ではないような

 

立原道造の詩や物語のヒロインの

 

モデルの一人でした。

 

 

 

 

 

 

たとえば第1詩集「萱草に寄す」「SONATINE No2」にある「夏の弔ひ」に

 

第2連、

 

投げ捨てたのは

 

涙のしみの目立つ小さい紙のきれはしだつた

 

――とある紙切れは

 

鮎からの手紙を関西旅行の途中

 

潮岬の海上で破り捨てた(小川和佑説)ことが

 

伝説的に伝わっている有名な事件の影でした。

 

 

 

この事件が1937年(昭和12年)8月にあり

 

「暁と夕の詩」が刊行されたのは

 

同年12月のことでした。

 

 

 

 

 

 

つづく。

 

 

 

 

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