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2017年2月21日 (火)

立原道造の詩を読む/「暁と夕の詩」の4番詩「眠りの誘ひ」

 

 

4番詩「眠りの誘ひ」は

 

紫式部学会編集の教養雑誌「むらさき」の

 

1937年2月号に発表されました。

 

 

 

 

 

 

Ⅳ 眠りの誘ひ

 

 

 

おやすみ やさしい顔した娘たち

 

おやすみ やはらかな黒い髪を編んで

 

おまへらの枕もとに胡桃色(くるみいろ)にともされた燭台のまはりには

 

快活な何かが宿つてゐる(世界中はさらさらと粉の雪)

 

 

 

私はいつまでもうたつてゐてあげよう

 

私はくらい窓の外に さうして窓のうちに

 

それから 眠りのうちに おまへらの夢のおくに

 

それから くりかへしくりかへして うたつてゐてあげよう

 

 

 

ともし火のやうに

 

風のやうに 星のやうに

 

私の声はひとふしにあちらこちらと……

 

 

 

するとおまへらは 林檎(りんご)の白い花が咲き

 

ちひさい緑の実を結び それが快い速さで赤く熟れるのを

 

短い間に 眠りながら 見たりするであらう

 

 

 

(岩波文庫「立原道造詩集」より。)

 

 

 

 

 

 

【現代表記】

 

 

 

Ⅳ 眠りの誘い

 

 

 

おやすみ やさしい顔した娘たち

 

おやすみ やわらかな黒い髪を編んで

 

おまえらの枕もとに胡桃色(くるみいろ)にともされた燭台のまわりには

 

快活な何かが宿っている(世界中はさらさらと粉の雪)

 

 

 

私はいつまでもうたっていてあげよう

 

私はくらい窓の外に そうして窓のうちに

 

それから 眠りのうちに おまえらの夢のおくに

 

それから くりかえしくりかえして うたっていてあげよう

 

 

 

ともし火のように

 

風のように 星のように

 

私の声はひとふしにあちらこちらと……

 

 

 

するとおまえらは 林檎(りんご)の白い花が咲き

 

ちいさい緑の実を結び それが快い速さで赤く熟れるのを

 

短い間に 眠りながら 見たりするであろう

 

 

 

 

 

 

この詩で「私」は歌う人です。

 

 

 

子守唄でも歌うかのように

 

ともし火のように

 

風のように

 

星のように。

 

 

 

それを聞かせられる娘たちは眠りのなかで

 

林檎の白い花が咲き

 

小さい緑の実を結び

 

赤く熟れるのを見るであろうと歌うだけです。

 

 

 

 

 

 

僕の住んでいゐたのは、光と闇との中間であり、暁と夕との中間であつた。

 

――と「風信子🉂」で表白した詩人に通じる

 

おそれとおののきがここには存在するでしょうか。

 

 

 

ともし火とか

 

風とか星とか。

 

 

 

中間に存在してうたう詩人のおそれとおののきと――。

 

 

 

 

 

 

つづく。

 

 

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