立原道造の詩を読む/「暁と夕の詩」の4番詩「眠りの誘ひ」
4番詩「眠りの誘ひ」は
紫式部学会編集の教養雑誌「むらさき」の
1937年2月号に発表されました。
◇
Ⅳ 眠りの誘ひ
おやすみ やさしい顔した娘たち
おやすみ やはらかな黒い髪を編んで
おまへらの枕もとに胡桃色(くるみいろ)にともされた燭台のまはりには
快活な何かが宿つてゐる(世界中はさらさらと粉の雪)
私はいつまでもうたつてゐてあげよう
私はくらい窓の外に さうして窓のうちに
それから 眠りのうちに おまへらの夢のおくに
それから くりかへしくりかへして うたつてゐてあげよう
ともし火のやうに
風のやうに 星のやうに
私の声はひとふしにあちらこちらと……
するとおまへらは 林檎(りんご)の白い花が咲き
ちひさい緑の実を結び それが快い速さで赤く熟れるのを
短い間に 眠りながら 見たりするであらう
(岩波文庫「立原道造詩集」より。)
◇
【現代表記】
Ⅳ 眠りの誘い
おやすみ やさしい顔した娘たち
おやすみ やわらかな黒い髪を編んで
おまえらの枕もとに胡桃色(くるみいろ)にともされた燭台のまわりには
快活な何かが宿っている(世界中はさらさらと粉の雪)
私はいつまでもうたっていてあげよう
私はくらい窓の外に そうして窓のうちに
それから 眠りのうちに おまえらの夢のおくに
それから くりかえしくりかえして うたっていてあげよう
ともし火のように
風のように 星のように
私の声はひとふしにあちらこちらと……
するとおまえらは 林檎(りんご)の白い花が咲き
ちいさい緑の実を結び それが快い速さで赤く熟れるのを
短い間に 眠りながら 見たりするであろう
◇
この詩で「私」は歌う人です。
子守唄でも歌うかのように
ともし火のように
風のように
星のように。
それを聞かせられる娘たちは眠りのなかで
林檎の白い花が咲き
小さい緑の実を結び
赤く熟れるのを見るであろうと歌うだけです。
◇
僕の住んでいゐたのは、光と闇との中間であり、暁と夕との中間であつた。
――と「風信子🉂」で表白した詩人に通じる
おそれとおののきがここには存在するでしょうか。
ともし火とか
風とか星とか。
中間に存在してうたう詩人のおそれとおののきと――。
◇
つづく。
« 立原道造の詩を読む/第2詩集「暁と夕の詩」の成り立ち・その3/風信子(ヒヤシンス)の苦悩 | トップページ | 立原道造の詩を読む/「暁と夕の詩」の5番詩「真冬の夜の雨に」 »
「058中原中也の同時代/立原道造の詩を読む」カテゴリの記事
- 立原道造の詩を読む/「暁と夕の詩」の5番詩「真冬の夜の雨に」(2017.02.22)
- 立原道造の詩を読む/「暁と夕の詩」の4番詩「眠りの誘ひ」(2017.02.21)
- 立原道造の詩を読む/第2詩集「暁と夕の詩」の成り立ち・その3/風信子(ヒヤシンス)の苦悩(2017.02.21)
- 立原道造の詩を読む/第2詩集「暁と夕の詩」の成り立ち・その2/不思議なジグザグ(2017.02.20)
- 立原道造の詩を読む/「暁と夕の詩」の3番詩「小譚詩」(2017.02.19)
« 立原道造の詩を読む/第2詩集「暁と夕の詩」の成り立ち・その3/風信子(ヒヤシンス)の苦悩 | トップページ | 立原道造の詩を読む/「暁と夕の詩」の5番詩「真冬の夜の雨に」 »
コメント