立原道造の詩を読む/第2詩集「暁と夕の詩」から「失はれた夜に」
立原道造の中原中也への追悼文「別離」を読んで
いま、空虚な気持ちがあるのは
立原道造の詩を読んでいないからであると気づきます。
というわけもありますから
幾つか読むことにしました。
◇
立原道造が中原中也の「無題」から引用し
自らの詩「ある不思議なよろこびに」のエピグラフ(題詞)としたのは
「四季」1936年6月号でした。
この詩が
第2詩集「暁と夕の詩」に収録された時に
「失はれた夜に」と改題され
エピグラフも削除されました。
◇
失はれた夜に
灼(や)けた瞳が 灼けてゐた
青い眸(ひとみ)でも 茶色の瞳でも
なかつた きらきらしては
僕の心を つきさした
泣かさうとでもいふやうに
しかし 泣かしはしなかつた
きらきら 僕を撫(な)でてゐた
甘つたれた僕の心を嘗(な)めていた
灼けた瞳は 動かなかつた
青い眸でも 茶色の瞳でも
あるかのやうに いつまでも
灼けた瞳は しづかであつた!
太陽や香のいい草のことなど忘れてしまひ
ただかなしげに きらきら きらきら 灼けてゐた
(岩波文庫「立原道造詩集」より。適宜、ルビを加えました。編者。)
◇
【現代表記】
失われた夜に
灼(や)けた瞳が 灼けていた
青い眸(ひとみ)でも 茶色の瞳でも
なかった きらきらしては
僕の心を つきさした
泣かそうとでもいうように
しかし 泣かしはしなかった
きらきら 僕を撫(な)でていた
甘ったれた僕の心を嘗(な)めていた
灼けた瞳は 動かなかった
青い眸でも 茶色の瞳でも
あるかのように いつまでも
灼けた瞳は しずかであった!
太陽や香のいい草のことなど忘れてしまい
ただかなしげに きらきら きらきら 灼けていた
◇
「ある不思議なよろこびに」には
タイトルに続いて、
戸の外の、寒い朝らしい気配を感じながら
私はおまへのやさしさを思ひ……
――中原中也の詩から
――と中也の詩「無題」の1節が引用されていました。
◇
つづく。
« 中原中也が「四季」に寄せた詩・番外編/立原道造の「別離」という追悼・最終回 | トップページ | 立原道造の詩を読む/第2詩集「暁と夕の詩」から「失はれた夜に」続 »
「058中原中也の同時代/立原道造の詩を読む」カテゴリの記事
- 立原道造の詩を読む/「暁と夕の詩」の5番詩「真冬の夜の雨に」(2017.02.22)
- 立原道造の詩を読む/「暁と夕の詩」の4番詩「眠りの誘ひ」(2017.02.21)
- 立原道造の詩を読む/第2詩集「暁と夕の詩」の成り立ち・その3/風信子(ヒヤシンス)の苦悩(2017.02.21)
- 立原道造の詩を読む/第2詩集「暁と夕の詩」の成り立ち・その2/不思議なジグザグ(2017.02.20)
- 立原道造の詩を読む/「暁と夕の詩」の3番詩「小譚詩」(2017.02.19)
« 中原中也が「四季」に寄せた詩・番外編/立原道造の「別離」という追悼・最終回 | トップページ | 立原道造の詩を読む/第2詩集「暁と夕の詩」から「失はれた夜に」続 »
コメント