新川和江・抒情の源流/「睡り椅子」の世界/「冬の金魚」その2
冬の金魚は
詩人の成り代わりでもあるわけですが
成り代わってどうしたのか。
そこにこの詩「冬の金魚」の
ねらい(眼目)はありますが
詩人はその種明かしをエッセイ「張りつめたこころ」で見せてくれます。
それが第3連終行の
つめたく燃ゆる銀嶺の雪
――です。
◇
冬の金魚
ひらひら ひらひら
夏のさかりを生きのびて
金魚は夜もねむらない
ひたぶるの この水中思考
死ぬ日までは生きねばならない
たつたひとりでも生きねばならない
さびしい生活の戒律を
そなたもまた まもるのか
いつの日か 水藻のかげに
白き腹見せてとはのねむりにつく時
金魚は夢見るであらう
つひにのぞむを得なかった
つめたく燃ゆる銀嶺の雪を
ひらひら ひらひら
きらめく裳裾をひるがへし ひるがへし
冬の金魚の
いのちのかなしさ
(花神社「新川和江全集」所収「睡り椅子」より。)
◇
ひらひら ひらひら
……。
眼前に揺れる金魚を見ている詩人は
寂し気で(?)
健気(けなげ)で
悠然として
夢を誘うような
眠りを誘うような
ひらひら ひらひら を見ていて
いつしか
金魚が永久の眠りにつく時を思います。
私が見るような夢を
金魚も見るだろうか? と。
その夢こそは
つめたく燃ゆる銀嶺の雪
――でした。
◇
つひにのぞむを得なかった
――と悲観しているようですが
冷たく燃ゆる銀嶺の雪
――ですから
それは至高の
到底、実現不可能な高峰の雪のことですから
のぞみの高さを指しています。
望んで実現しなかった
――と言っているのではありません。
◇
詩人はその<銀嶺の雪>を、
夜ごと目覚めて思考しても、ついに書き得ないだろう至高の詩の暗喩
――と明かしています。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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