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2017年3月21日 (火)

新川和江・抒情の源流/「睡り椅子」の世界/「虐殺史」のメタファー

 

 

詩が書かれた背景を知ったからといって

詩を読めるものでないのは

一つには詩内容(あるいは詩のテーマ)が

書かれた背景(現実)に言及しないことがあるからです。

 

ヒントになる詩行がわずかにでもある場合はともかく

現実の痕跡すらも現れない詩がありますし。

 

背景を知らなくては読めない詩であるのなら

詩の独立(性)を損なうという詩法を排除することにもなります。

 

 

「虐殺史」は

そのようなことを考えさせてくれますが

いったい、では、

詩の背景が詩の中に現われるでしょうか?

 

「虐殺史」は

こういう問いには

比較的に容易に答えることができるでしょう。

 

第1連、

俎板の上

諦念の魚

今宵も疲れはてし此の身

つめたき臥床(ふしど)

――は、

詩人の生(活)の現実から歌い出していると捉えて

ほぼ間違いはないことでしょう。

 

詩人の苦悶が

生計上のものを含むかどうか

経済的困難を訴えたものでないことを察することができるなら

これはやはり

詩作に由来する苦しみのメタファーであることを知るでしょう。

 

第2連は、

この苦しみをギリシア神話にかぶせて

この詩の最大のレトリックが仕掛けられますが

「プロクラステスの寝台」にとらわれているうちに

詩を見失いがちになるところでもあります。

 

 

この詩の最大の眼目(謎)は

終連の、

夜もすがら脅かす風

夜もすがらまたたくランプ

――ではないでしょうか?

 

1連で訴えられた苦悶の原因が

この2行に捉えられていることを理解するまでに

「プロクラステスの寝台」の神話に気を取られて

読者は神話の学習に追われます。

 

それはそれで

詩を読む楽しみの一つですし

この詩の生命に繋がりますから

大いに楽しんだらよいのですが

プロクラステスの寝台(という詩語)の衝撃で

見失いがちなのが

終連の2行です。

 

ことさら、

夜もすがらまたたくランプ

――です。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 

 

虐殺史

 

俎板の上に横たへられし

諦念の魚のごとく

今宵も疲れはてし此の身を

つめたき臥床(ふしど)に横たへぬ

 

夢見ぬ

おそろしき夢見ぬ

わが臥せるはプロクラステスの寝台

夜の街の辻にさらはれては

その上に横たへられて

長き者はみじかく斬られ 短き者は引伸ばされ

無惨にも殺されゆくてふ

かの 古代ギリシヤの暗黒の夜を……

 

われを細裂(こまざ)く賊こそ見えね

夜もすがら脅かす風

夜もすがらまたたくランプ

あはれ まこと 此の暗き世に生きてあれば

かの遠き世の道ゆく“とつくにびと”のごとく

罪なきにとらはれの身ぞ われは。

 

(花神社「新川和江全詩集」所収「睡り椅子」より。原作のルビは” “で示しました。編者。)

 

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