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2017年3月 9日 (木)

新川和江・抒情の源流/「睡り椅子」の世界/「PRAYER (1)」の都会

 

「睡り椅子」は

第1章「雪の蝶」は12篇

第2章「都会の靴」は18篇

第3章「昨日の時計」は21篇

――という構成ですが

これら詩篇が時系列で配置されているのかどうか

はっきりとはわかりません。

(※詩集に「章」という語は使われていません。念のため。)

 

よく読めば

実証できる内容なのかも知れませんが

古い作品から新しい作品へと

配列されているものと考えるのが自然でしょう。

 

 

第2章「都会の靴」は

文字通り、都会(茨城から移住した東京)をモチーフにした

詩が現われます。

 

 

PRAYER  (1)

 

わたしたちの知らないどこかで

ふたたび軍備がはじまつてゐるのだらうか?

カーキ色にぬりたてた車輪を乗せて

蛇のような貨車が今日も通る

 

国電エビス駅

ミリタリズムの貨車は

こんなちつぽけな駅にとまりはしない

見向きもしないで通り過ぎる 通り過ぎる

 

通り過ぎよ 通り過ぎよ

ここにとまつてよいものは

にんげんを乗せるあたたかな電車

わたしを

逢ひたいひとのもとへはこび

日ぐれは なつかしいわが家の

実(み)のやうなあかり“ちらちら”

走りつつ見える窓のある電車

 

通りすぎよ 通りすぎよ

戦火の日にも

軍歌よ 原爆よ 重税よ

ちひさな駅にはとまらぬがよい

 

国電エビス駅

ここに

わたしの待つているのは 電車

きそく正しく止るのは 電車

 

ホームより見下せば

マーケツトのざわめき よし

レコードの流行歌 よし

道路工夫のよいとまけの声 よし

とある庭先

カンナの花にたはむれる二匹の蝶 よし

音立てず通りすぎよ 貨車

この夢 やぶるな

 

(花神社「新川和江全詩集」所収「睡り椅子」より。原詩のルビは” “で示しました。編者。)

 

 

この詩は

反戦の歌であるよりも

詩人が移住した土地を

愛しはじめた証(あかし)として読むことができるでしょう。

 

「小さな風景画」の中で「ふたり」として先に登場したカップルは

この詩で「カンナの花にたはむれる二匹の蝶」になります。

 

 

「冬の金魚」が見た「銀嶺の雪」のような

詩作する少女の夢が語られるものではなく

生きていくための土台(生活)が

ミリタリズムの貨車に踏みにじられることを危惧し拒否する

祈り――。

 

国電恵比寿駅を乗り降りする詩人が

実際に見聞きした風景に触発されて歌った祈りのようです。

 

生活を脅かすものは

詩作する生活を困難にするものですから

轟音を残して通りすぎる貨車が

エビス駅に停まりはしないかという脅威が

胸元をよぎる日々があったのでしょう。

 

終ったはずの戦争は

市民の足である国電に

戦後も(現在も)影を落としていました。

 

山の手線沿いの住まいであるために

いっそうその影は感じ取られたのか

素朴にありのままに

都心の生活者の気持ちが歌われました。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 

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