新川和江・抒情の源流/「睡り椅子」の世界/「PRAYER」が祈るもの
「PRAYER」は(4)まであり
移住地、東京・恵比寿での
山あり谷ありの暮らしが
連作詩の形で紡がれます。
◇
(2)には冒頭
雨はわたしの周囲にのみ
かくもはげしく涙流して降るのであらうか
――とあり
終行の少し前に
夜をこめて臥床つめたく
幾万の友もねむらずいのるであらうか?
――とあり
(4)には
どのいえの妻たちも、この夜ふけ
わたしと同じくいのるにちがひない
――というエピグラフ(序詞)が添えられ
こんなはげしい雨かぜの夜にも
神さま
この平らかな土地に建てたちひさな家が
夫と妻の安らかなねむりを守ってくれるといふことに
今更ながらおどろいて涙ぐみます
――と神への祈りが書き出されます。
◇
移住してきた土地、東京の暮らしの
夫とふたり、つましく生きるしあわせと困難が
神を呼ぶのですが
リアリズムのような詩行の中に
(3)では
波風荒い七つの海を
このカップの中へをさめることが出来たら と
せつないいのりの
おとぎばなしを組み立てるのです
――が現われます。
◇
この4行を読み過ごしては
いけません。
(3)は
朝に1杯のモーニング・ミルクを飲める平和に
感謝する詩です。
もしこの4行がなかったら
「PRAYER」は
リアリズムと言えるような詩になるかも知れないというほどの
見過ごしてはならない一節のはずですが
「PRAYER」全体が
平和な暮らしが持続することを祈る詩の流れにあります。
そのせいで読み過ごされがちですし
連詩「PRAYER」の次に置かれたのは
「断章」という小品であるため
なおさらです。
◇
断章
おとなりのおくさんが
かはいい女のあかちゃんを生みました
おまへはどうして生めないのかと
子好きな夫はなげきます
わたしはだまつて
ごはんをたきます
朝と晩
かうしてぢつと耳をすまして
お釜のなかの
お米のいのりをききながら
(花神社「新川和江全詩集」所収「睡り椅子」より。)
◇
途中ですが
今回はここまで。
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