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2017年3月11日 (土)

新川和江・抒情の源流/「睡り椅子」の世界/「PRAYER」が祈るもの

 

 

「PRAYER」は(4)まであり

移住地、東京・恵比寿での

山あり谷ありの暮らしが

連作詩の形で紡がれます。

 

 

(2)には冒頭

 

雨はわたしの周囲にのみ

かくもはげしく涙流して降るのであらうか

――とあり

終行の少し前に

 

夜をこめて臥床つめたく

幾万の友もねむらずいのるであらうか?

――とあり

 

(4)には

どのいえの妻たちも、この夜ふけ

わたしと同じくいのるにちがひない

――というエピグラフ(序詞)が添えられ

 

こんなはげしい雨かぜの夜にも

神さま

この平らかな土地に建てたちひさな家が

夫と妻の安らかなねむりを守ってくれるといふことに

今更ながらおどろいて涙ぐみます

 

――と神への祈りが書き出されます。

 

 

移住してきた土地、東京の暮らしの

夫とふたり、つましく生きるしあわせと困難が

神を呼ぶのですが

リアリズムのような詩行の中に

(3)では

 

波風荒い七つの海を

このカップの中へをさめることが出来たら と

せつないいのりの

おとぎばなしを組み立てるのです

――が現われます。

 

 

この4行を読み過ごしては

いけません。

 

(3)は

朝に1杯のモーニング・ミルクを飲める平和に

感謝する詩です。

 

もしこの4行がなかったら

「PRAYER」は

リアリズムと言えるような詩になるかも知れないというほどの

見過ごしてはならない一節のはずですが

「PRAYER」全体が

平和な暮らしが持続することを祈る詩の流れにあります。

 

そのせいで読み過ごされがちですし

連詩「PRAYER」の次に置かれたのは

「断章」という小品であるため

なおさらです。

 

 

断章

 

おとなりのおくさんが

かはいい女のあかちゃんを生みました

おまへはどうして生めないのかと

子好きな夫はなげきます

 

わたしはだまつて

ごはんをたきます

朝と晩

かうしてぢつと耳をすまして

お釜のなかの

お米のいのりをききながら

 

(花神社「新川和江全詩集」所収「睡り椅子」より。)

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 

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