新川和江・抒情の源流/「睡り椅子」の世界/「別後歎唱」の別れ
とうに別れた相手のひとが
今もあなたを忘れていないと誰かに明かし
そのこころが風の便りに伝わってくる
それを知って
乙女のこころは
千々に乱れる。
「晩春秘唱」の
その後――。
◇
別後歎唱
――そのことまことかは知らず、風の便りに
君いまだわれを忘れ給はねときけば――
君が心知り得てうれしく
君が心知り得てかなしく
かかる日
春陽(しゅんよう)の且つ照り且つ曇るそのかげのごと
目無き魚(うお) いくたびかおろおろと
晦(くら)き水底の岩間をよぎる
(花神社「新川和江全詩集」所収「睡り椅子」より。)
◇
「晩春秘唱」の「かのひと」は
ここでは「君」になり
いっそう男女のは距離は縮まっていますが。
わたしのことを好きでいてくれるのは
うれしい。
でも……。
何か
はっきりと言えない
こころの奥底にあるものがあるようです。
心は通じているのに
結ばれない
悲しい恋の歌です。
◇
「睡り椅子」の終章「昨日の椅子」は
こうした悲恋歌が
咲き乱れます。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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