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2017年4月18日 (火)

新川和江・抒情の源流/「睡り椅子」の世界/「君よ 籐椅子のやうに」の毛虫

 

 

毛虫が現われる詩が

ほかにもあり、びっくりしています。

 

「睡り椅子」はじめの章「雪の蝶」の

3番詩「君よ 籐椅子のやうに」です。

 

 

君よ 籐椅子のやうに

 

君よ

籐椅子の様にわたしを抱いて

此のみどりの藤棚の下でねむらせて下さい

 

夏の日の午睡のひととき

世界中におそれるものの

何ひとつとてない此の誇らかな幸福を

静かに眠りつつ夢みたいのです

静かに夢みつつ楽しみたいのです

 

やがて

むらさきの花房が

音もなくしづしづと垂れてくるでせう

頬といはず胸といはず腕といはず

はては二重顎のかげの頸筋にまで捲きついて

おお わたしの体はむらさきの花房まがひ!

わたしは眠りながらほのかに微笑して

その花のひとふさを握ろうとします

するとまあ それはあなたの

やさしい腕 あたたかな抱擁

 

限りなき幸福よ

何おそれよう 藤棚の毛虫を

花散らす秋風を 移りゆく季節を――

花房は君が腕

籐椅子の様に安楽なる君が腕ゆゑ!

 

(花神社「新川和江全詩集」所収「睡椅子」より。)

 

 

冒頭詩が「しごと」で

2番詩「愛人ジュリエット」であり

この詩が3番目に配置されている意図を汲めば

この詩の重要な位置づけというものが

理解できることでしょう。

 

第1詩集「睡り椅子」の中で

「君」が初めて登場するのもこの詩ですし。

 

「しごと」も「愛人ジュリエット」も読んでいないのですから

その位置づけを理解するというのは無理な話ですが

詩集の最終詩に「おもひ出」を配置し

この詩「君よ 籐椅子のやうに」が詩集の3番詩であるという

単なる並び順のように見えるこの配置が

偶然であるはずもありません。

 

最終詩が重要な位置づけであるように

3番詩が重要であるという位置づけは

疑いようにありません。

 

二つの詩は

重要な位置づけにあるうえに

毛虫という詩語の使用で接続しているという

意図も浮かび上がってくることでしょう。

 

 

こちらの毛虫は

何おそれよう 藤棚の毛虫を

――とあるように

「おもひ出」の毛虫と同じく

恋を脅かす存在です。

 

より明確に

怖い存在の象徴ですが

花散らす秋風を 移りゆく季節を――

――と続けられて

恋の翳(かげ)りを予感するかのようなこころが

歌われます。

 

幸福の絶頂を願望しながら。

 

 

「おもひ出」では

飛葉を毛虫たちの末の形である蝶々と見まがうわたしでしたから

恋はすでに遠い日のことでしたが

この詩でも

恋の絶頂を願望するゆえに

その終わりをも瞥見(べっけん)する眼差しがあります。

 

 

甘苦しいだけのような詩ではありません。
 
その装置として

毛虫たちは現れます。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 

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