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2017年4月10日 (月)

新川和江・抒情の源流/「睡り椅子」の世界/「晩春秘唱」の別れ

 

晩春秘唱

 

         ――ちかひ――

おそはるの空あをくして

花さへ散りてゆくものを

ながれのほとりかのひとは

かなしきことを誓ひにき

 

         ――薔薇――

なみだの水をついだとて

しをれし薔薇のせんなしや

わが若き日の悔恨の

雲はゆくなり 空とほく

 

         ――夕ひばり――

夕やけ雲に啼くひばり

草間のかげをゆく流れ

せつなくもだしよりそへど

わがかなしみは君知らず

 

         ――春ゆくらし――

日毎待てるに来ぬふみの

かへすがへすもうらめしや

きのふもけふも降る雨に

春ゆくらしの花が散る

 

         ――おもひで――

おもひでゆゑに 切々と

逝く春の夜は雨よ降れ

かかるゆうべはかの君も

かなしくなみだぬぐふらむ

 

(花神社「新川和江全詩集」所収「睡り椅子」より。)

 

 

この詩は「昨日の椅子」に収められていますから

東京へ移住する前の制作と捉えてよいでしょう。

わざわざそのように解する必要はないのかも知れませんが

文語七五調でもありますし

早い時期の作品であることには違いなく

だとすれば、

女学生の恋がまっすぐに歌われた詩ということになり

抒情の誕生を

つぶさに見ることができるのですから

自然身を乗り出す姿勢になります。

 

 

女学生詩人はすでに、

わが若き日の悔恨の

雲はゆくなり 空とほく

――と青春を振り返ります。

(第2詩)

 

かなしい誓い(第1詩)とは

やむを得ない長い別れに

誓った愛の言葉でしょうか。

 

それとも

恋人は出征したのでしょうか。

 

 

せつなくもだしよりそへど

わがかなしみは君知らず

――は、恋人の間が最も接近した時間をとらえて

この詩の頂点にさしかかります。

言葉なく寄り添っていたけれど

キスの一つもしてくれなかったという

秘めた女心が隠されているでしょうか。

 

 

第4詩「春ゆくらし」の春は

一度巡ってまたやって来た春なのでしょう。

 

1年も待ち続けて

来なかった手紙。

 

雨ばかりがつづいて

桜は散り急ぐ。

 

 

すでに思い出となった恋――。

どうせ思い出、遠い日のこと。

 

今年の春も逝く。

 

きっとあの人も

このような夕(ゆうべ)には

悲しみの涙をながしていることでしょう。

 

きっと。

 

 

詩人がこのような別れを

実際に経験したのかどうかという関心にまさって

この詩の味わいどころは存在するでしょう。

 

「ちかひ」から「おもひで」に至る物語が

この詩には流れていますが

その流れの中に述べられるこころの

まるで成熟した女性を思わせるせつなさが

女学生詩人によって歌われたところです。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 

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