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2017年4月16日 (日)

新川和江・抒情の源流/「睡り椅子」の世界/毛虫の「おもひ出」

 

 

 

毛虫たち!

――として現れる毛虫は

いったいどこに存在したのでしょうか?

 

 

二人は

川のほとりにいて

せせらぎがきこえています。

 

せせらぎの音にさえぎられて

あなたのささやきは聞こえなかったし

それどころか

みどりの葉かげに潜んでいる

毛虫たちがこわかったから

とても耳に入らなかったと

遠い日の思い出を語っている第1連は

次の連に行くと

5月だった同じその日その時に流した涙は

青葉の緑がまぶしかったせいだったことを明かします。

 

 

緑の葉陰の毛虫たちは

第2連で

まぶしい緑の中に消えてしまうのですが

第3連で

ふたたび現われ

今度は蝶になります。

 

……といってもこの蝶は

あの日の蝶ではなく

幾年月が流れて

結婚したわたしが築いている家庭の

晩ご飯のための買い出しに出た街の

落ち葉が舞うのを見て

想像する中に出てくる蝶でした。

 

何年も後になって

都会の街角で見た落葉が

あの日の毛虫たちが羽化して飛び立ったイメージとして

突然現れたのでした。

 

蝶といっても

ひらひら舞い落ちる黄色い葉が

骸(むくろ)を連想させたのでした。

 

 

そして最終連最終行は
「あなたもどこかでぬれてゐるのでせうね?」


――と遠い日の恋心が
消滅していないことを歌って

閉じられます。

 

 

怖いのと眩しいのとが絡まりあうはじまりから

街角で見た落葉が蝶の死骸へ連結する現在へ。

 

思い出がよみがえるとき

毛虫たちは毛虫でなくなって

蝶々のむくろになって現れる

骨太なイメージの飛躍と時間の経過が

この詩の命になっています。

 

乙女の恋に現われる毛虫のイメージ(思い出)が

妙に生々しく

詩に強度を与えているのは

この詩が口語自由詩であることと無縁であるはずがありません。

 

それにしても

毛虫たちはどこに存在したでしょうか?
 
この詩が

リアリズムの詩と一線を画している謎が

この問いに隠されているようです。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

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