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2017年4月13日 (木)

新川和江・抒情の源流/「睡り椅子」の世界/「悲唱」の別れ

 

 

 

滾々(こんこん)と湧き出でるリリック――。

 

これでもかこれでもかと

別れ歌が歌われます。

 

 

悲唱

 

その日より

町はいと晦き水底に沈みき

音なく 風なく 光なく

ふたたびは頭上に日輪を仰ぐことなく

深き 深き 憂愁の底に沈みき

 

たそがれ

そが町のほとりをよぎれば

羽ばたき重く一羽の灰色の鳩

高き石窓より石窓へ伝い飛ぶあり

されど 家々の窓には

今宵もあかりのともることなし

夕来れど星さへ出でず

町はさむることなき悪夢の裡に病みたり

 

光なりしや

ひびきなりしや

風なりしや

かの君

君去りてたのしきうたの消え失せしその日より

町は永久(とことは)にいと暗き水底に沈みき

 

(花神社「新川和江全詩集」所収「睡り椅子」より。)

 

 

この詩「悲唱」が

「晩春秘唱」や「別後歎唱」と異なるのは

この詩が文語を使ってはいるものの

七五、五七の音数律から離れたところです。

 

定型の音数律をやめて

自由に歌う試みがはじめられましたが

完全に無くしたわけではなく

5音を基調にしながら

3音(8音)、4音を混ぜ

7音もあります。

 

 

文語七五調の流れに

詩の形は破調が持ち込まれたことになりますが

嫋々(じょうじょう)とした響きが衰えることはなく

そのうえこの響きの中には

理知的なものの存在が潜んでいるので

妙な感染症にかかることもありません。

 

歌われる内容が

失われた恋(別れ)であるからといって

この詩には

感染するようなルサンチマン(悪感情)がありません。

 

未来があるような

別れといえば変ですが

そのようなものが

この詩には流れています。

 

 

たとえば――。

 

かの君を失って

わたしという固体は打撃を受けるのですが

その打撃は、

 

その日より

町はいと晦き水底に沈みき

――という詩行が示す

町の水没というスケールで言い表されます。

 

一人称単数形のわたしに

別れの打撃は閉じ込められません。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

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