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« 新川和江・抒情の源流/「睡り椅子」の世界/「しごと」のメッセージ・その3 | トップページ | 今日は詩人、中原中也の生誕110年記念日です。 »

2017年4月28日 (金)

新川和江・抒情の源流/「睡り椅子」の世界/2番詩「愛人ジュリエット」

 

 

 

新川和江の第1詩集「睡り椅子」の中から

幾つかの詩をピックアップして読んできましたが

最後に「愛人ジュリエット」を読みましょう。

 

この詩が

冒頭詩「しごと」に続いて

詩集の2番詩の位置にあることを知っておけば

ほかに何も知る必要はないことでしょう。

 

 

愛人ジユリエツト

     ――同じ名の映画によせて――

 

――ジユリエツトは薔薇の名

――ジユリエツトは船の名

――ジユリエツトはミモザの花にほふあの街角のカツフエの名

 

――ジユリエツトは昔はやつた小唄の題よ

――いやいや ジユリエツトは三年前 “いなせな”船乗りと

   駈落ちしやがつた浮気な俺の女房さ

――滅相な ジユリエツットは清い乙女のまま 今朝がた昇天した

   私のかわいいひとり娘でございます

――ジユリエツトはわたしですがな まだこの通り健在で……

                六十いくつの粉屋の主婦(おかみ)

 

忘却の国をおとづれ

いとしいひとの名を呼ぶとき

そこではすべてがジユリエツトであった

にはかに

数知れぬ小鳥ら 群れ集ひ

樹々たち 囁き交はし

野の草 耳そばだて

海 こんじきに輝きわたり

山はむらさき

さうしてすべてはジユリエツトではなかつた

 

ジユリエツトは影

ジユリエツトはさすらふ風

ジユリエツトは流れ行く雲

 

   ジユリエツト ジユリエツト ジユリエツト!

 

むなしく

あをぞらに谺(こだま)して

くだけ散る恋の名の悲しさ

 

(花神社「新川和江全詩集」所収「睡り椅子」より。原詩の傍点は” ”で示しました。編者。)

 

 

エピグラフにあるようにこの詩は

映画を鑑賞して生まれたものです。

 

「愛人ジュリエット」は

1952年12月に封切り公開された

フランス映画で

監督はマルセル・カルネ、

主演はジェラール・フィリップです。

 

そういったところで

ジェラール・フィリップを知らない世代が

この詩にどれだけ近づけるのか

不安は残りますが

詩はそんなことを楽々と超えてしまうものですから

詩であるということもできます。

 

この詩を読めば

映画「愛人ジュリエット」にアクセスすることが

容易になるというものですから。

 

 

では、この詩は

映画「愛人ジュリエット」の鑑賞記なのでしょうか?

 

そういう問いが生まれた時に

「愛人ジュリエット」という詩へ

一歩近づいているという関係が

この詩と映画の関係になります。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 

 

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