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2017年5月11日 (木)

中原中也生誕110年に寄せて読む詩・その11/「或る夜の幻想(1・3)」

 

 

「或る夜の幻想」は

「四季」昭和12年(1937年)3月号に

全6節の連作構成詩として発表されましたが

「在りし日の歌」には

第2節が「村の時計」として

第4、5、6節が「或る男の肖像」として収録され

第1節「彼女の部屋」と第3節「彼女」は削除されました。

 

ですから「或る夜の幻想」というタイトルの詩は

「四季」誌上でしか読むことはできません。

 

「新編中原中也全集」はこれを踏まえ

「或る夜の幻想」の削除された部分を

「或る夜の幻想(1・3)」のタイトルで

「生前発表詩篇」の中に分類して

読むことができるようにしています。

 

 

或る夜の幻想(1・3)

 

    1 彼女の部屋

 

彼女には

美しい洋服箪笥(ようふくだんす)があった

その箪笥は

かわたれどきの色をしていた

 

彼女には

書物や

其(そ)の他(ほか)色々のものもあった

が、どれもその箪笥(たんす)に比べては美しくもなかったので

彼女の部屋には箪笥だけがあった

 

  それで洋服箪笥の中は

  本でいっぱいだった

 

   3 彼 女

 

野原の一隅(ひとすみ)には杉林があった。

なかの一本がわけても聳(そび)えていた。

 

或(あ)る日彼女はそれにのぼった。

下りて来るのは大変なことだった。

 

それでも彼女は、媚態(びたい)を棄てなかった。

一つ一つの挙動(きょどう)は、まことみごとなうねりであった。

 

夢の中で、彼女の臍(おへそ)は、

背中にあった。

 

(「新編中原中也全集」第1巻より。新かなに変えました。)

 

 

ここに登場する彼女は

長谷川泰子以外を想像することはできませんが

もはや長谷川泰子というモデルは

固有名詞である以上に

普遍性(永遠性)を有する存在になっているようで

なんとも不思議な感覚になります。

 

人によって受け止め方は違うのでしょうが

実在のモデルであることは変わりようがないのですが

詩の中に現われた途端に

何か血の流れる身体というよりも

どこかしら作り物めいた人工的なイメージさえするのは

詩に現れる女性が

もともとシュール(超現実的)に描かれているからでしょうか。

 

 

「四季」発表の1937年は

詩人の最晩年になります。

 

遠い日の恋を歌うパワーは

いまだ衰えを知らなかったのです。

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