中原中也生誕110年に寄せて読む詩・その13/「わが喫煙」
傍(はた)から見れば
似合いのカップルでも
相手を不服に思うこころがあったり
破局が訪れている段階であったりするわけですが
この詩がどのような段階の恋であるのか。
◇
わが喫煙
おまえのその、白い二本の脛(すね)が、
夕暮(ゆうぐれ)、港の町の寒い夕暮、
にょきにょきと、ペエヴの上を歩むのだ。
店々に灯(ひ)がついて、灯がついて、
私がそれをみながら歩いていると、
おまえが声をかけるのだ、
どっかにはいって憩(やす)みましょうよと。
そこで私は、橋や荷足を見残しながら、
レストオランに這入(はい)るのだ――
わんわんいう喧騒(どよもし)、むっとするスチーム、
さても此処(ここ)は別世界。
そこで私は、時宜(じぎ)にも合わないおまえの陽気な顔を眺め、
かなしく煙草(たばこ)を吹かすのだ、
一服(いっぷく)、一服、吹かすのだ……
(「新編中原中也全集」第1巻より。現代かなに変えました。)
◇
絶頂を越えてしまった
恋であることは間違いなさそうです。
かなしく煙草をふかす詩人は
打つべき手がありません。
◇
初出が「白痴群」第6号、
1930年(昭和5年)4月1日付けの発行です。
この年の1、2月もしくは前年の制作と推定されています。
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