中原中也生誕110年に寄せて読む詩・その17/「汚れっちまった悲しみに…… 」
「山羊の歌」の「みちこ」の章には
有名な「汚れっちまった悲しみに……」があり
これが「みちこ」と「無題」の間に配置されています。
「汚れっちまった悲しみに……」が
失恋を歌った詩であることも
疑うことはできませんが
失恋の歌以上の深みがあるゆえに
失恋の詩とわざわざ言わなくてよいかのように
愛唱されてきました。
◇
汚れっちまった悲しみに……
汚れっちまった悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れっちまった悲しみに
今日も風さえ吹きすぎる
汚れっちまった悲しみは
たとえば狐の革裘(かわごろも)
汚れっちまった悲しみは
小雪のかかってちぢこまる
汚れっちまった悲しみは
なにのぞむなくねがうなく
汚れっちまった悲しみは
倦怠(けだい)のうちに死を夢(ゆめ)む
汚れっちまった悲しみに
いたいたしくも怖気(おじけ)づき
汚れっちまった悲しみに
なすところもなく日は暮れる……
(「新編中原中也全集」第1巻より。現代かなに変えました。)
◇
悲しみのうえに汚れが重なっているということなら
泣きっ面に蜂の状態だ
――と言いかえただけで
失われる詩がありますから
その分を差し引いて感じ取ることが大事です。
「盲目の秋」がそうであったように
この詩が失恋を歌って
失恋以上を歌っていて
ではそれは何かと問いはじめると
詩を見失なってしまうので
自然、また歌を口ずさむと
詩が戻って来る
――というような循環が心地よい歌です。
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