中原中也生誕110年に寄せて読む詩・続続続/「時こそ今は……」
生誕110年の記念すべき日に寄せて
こころに残る詩をひろい読みしているうちに
中也の作った恋の歌ばかりを並べる結果になりました。
未発表詩を含めて計380ほどの全詩に
1割ほどはあるでしょうか
5%ほどでしょうか。
もっと読みたくなってきたのは
木の芽時(このめどき)の陽気のせいでしょうか。
恋の絶唱といってもオーバーではない
名品「時こそ今は……」は
「山羊の歌」中「秋」の章の最終詩です。
◇
時こそ今は……
時こそ今は花は香炉に打薫じ
ボードレール
時こそ今は花は香炉(こうろ)に打薫(うちくん)じ、
そこはかとないけはいです。
しおだる花や水の音や、
家路をいそぐ人々や。
いかに泰子(やすこ)、いまこそは
しずかに一緒に、おりましょう。
遠くの空を、飛ぶ鳥も
いたいけな情(なさ)け、みちてます。
いかに泰子、いまこそは
暮るる籬(まがき)や群青の
空もしずかに流るころ。
いかに泰子、いまこそは
おまえの髪毛なよぶころ
花は香炉に打薫じ、
(「新編中原中也全集」第1巻より。現代かなに変えました。)
◇
ファムファタル、長谷川泰子と別れて後
しばしば二人は逢うことがありました。
詩人のこころは
幸福の絶頂にあって
静かなひとときが流れていかないように
祈っていました。
詩末の「、」は
永遠の時を願う詩人の気持ちを表します。
1930年(昭和5年)1、2月の制作です。
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