中原中也生誕110年に寄せて読む詩・その5/「妹よ」
恋の絶唱といったからには
幾つもの詩が出て来てしまいます。
歴史的名品が
「山羊の歌」中にも
「在りし日の歌」の中にも
犇(ひしめ)めいています。
「妹」が
「盲目の秋」や「わが喫煙」と並んで
「少年時」の章に配置されているのには
詩人の秘かな意図があるようですが
それは詩を読んでいる時の中で
現われては消え
消えては現れるようにして
見えるだけです。
◇
妹 よ
夜、うつくしい魂は涕(な)いて、
――かの女こそ正当(あたりき)なのに――
夜、うつくしい魂は涕いて、
もう死んだっていいよう……というのであった。
湿った野原の黒い土、短い草の上を
夜風は吹いて、
死んだっていいよう、死んだっていいよう、と、
うつくしい魂は涕くのであった。
夜、み空はたかく、吹く風はこまやかに
――祈るよりほか、わたくしに、すべはなかった……
(「新編中原中也全集」第1巻より。現代かなに変えました。)
◇
恋する女性を
妹のように思うこころが訪れたのを
詩人は
何とか歌いたかったのでしょう。
◇
1930年(昭和5年)1、2月の制作で
「時こそ今は……」と同じころですが
草稿が初めて作られたのは
それより1年ほど前のことと推定されてもいます。
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