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2017年5月 9日 (火)

中原中也生誕110年に寄せて読む詩・その9/「追懐」

 

 

一度使われた詩の言葉が

他の詩に再び現れることはよくあることですが

詩に謎めいた内容があるとき

それらを比較して

詩の味わいを深める手立てにすることは

それほど乱暴なことではありません。

 

何らかの手がかりが

つかめるかもしれないのですから

自然な方法の一つでしょう。

 

 

「青い瞳」の謎を解きほぐす材料になるかどうか、

「追懐」という未発表詩には

「黄色い灯影」という詩語が使われていますが

これは「青い瞳」にも出てきました。

 

 

追 懐

 

あなたは私を愛し、

私はあなたを愛した。

 

あなたはしっかりしており、

わたしは真面目であった。――

 

人にはそれが、嫉(ねた)ましかったのです、多分、

そしてそれを、偸(ぬす)もうとかかったのだ。

 

嫉み羨(うらや)みから出発したくどきに、あなたは乗ったのでした、

――何故(なぜ)でしょう?――何かの拍子……

 

そうしてあなたは私を別れた、

あの日に、おお、あの日に!

 

曇って風ある日だったその日は。その日以来、

もはやあなたは私のものではないのでした。

 

私は此処(ここ)にいます、黄色い灯影に、

あなたが今頃笑っているかどうか、――いや、ともすればそんなこと、想っていたりするのです

 

         (一九二九・七・一四)

 

(「新編中原中也全集」第2巻所収「ノート小年時」より。新かなに変えました。)

 



詩末に付記されているように

この詩は1929年(昭和4年)7月14日に制作されました。

 

「青い瞳」の制作は1935年(昭和10年)10月と推定されていますから

6年近くの隔たりがありますが

両者はまったく関係ないものとは

とても思えないほどに

特定の場面が鮮やかに浮かんできます。

 

それは男と女の離別の場面ですが

「追憶」の場面が「青い瞳」の場面につながる理由は

何一つ見つかりません。

 

「黄色い灯影」という詩語以外に。

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