中原中也生誕110年に寄せて読む詩・その7/「タバコとマントの恋」
中原中也が長谷川泰子を知ったのは
大正3年(1924年)のことでした。
立命館中学4年に進級した直後のことで
17歳。
前年に高橋新吉の詩集「ダダイスト新吉の詩」にふれ
自身もダダイズムの詩を多作しました。
◇
タバコとマントの恋
タバコとマントが恋をした
その筈(はず)だ
タバコとマントは同類で
タバコが男でマントが女だ
或時(あるとき)二人が身投(みなげ)心中したが
マントは重いが風を含み
タバコは細いが軽かったので
崖の上から海面に
到着するまでの時間が同じだった
神様がそれをみて
全く相対界のノーマル事件だといって
天国でビラマイタ
二人がそれをみて
お互の幸福であったことを知った時
恋は永久に破れてしまった。
(「新編中原中也全集」第2巻より。新かなに変えました。)
◇
この詩は明らかに
恋の破綻(はたん)を歌ったものですが
泰子のことであるなら
詩人は泰子を知ったかなり早い時期に
泰子を失っていたということになります。
リアリズムの詩ではないでのですから
字義通りに読むのが正解とばかり言えませんが
そのあたりは確証できていないところです。
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