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2017年5月 1日 (月)

中原中也生誕110年に寄せて読む詩・続続/「あばずれ女の亭主が歌った」

 

 

「在りし日の歌」には


女性が現われる詩が案外、多くあります。

 

「あばずれ女の亭主が歌った」は

「米子」と同じく「永訣の秋」の章にあります。

 


 


あばずれ女の亭主が歌った

 

おまえはおれを愛してる、一度とて


おれを憎んだためしはない。

 

おれもおまえを愛してる。前世から


さだまっていたことのよう。

 

そして二人の魂は、不識(しらず)に温和に愛し合う


もう長年の習慣だ。

 

それなのにまた二人には、


ひどく浮気な心があって、

 

いちばん自然な愛の気持を、


時にうるさく思うのだ。

 

佳(よ)い香水のかおりより、


病院の、あわい匂(にお)いに慕いよる。

 

そこでいちばん親しい二人が、


時にいちばん憎みあう。

 

そしてあとでは得態(えたい)の知れない


悔(くい)の気持に浸るのだ。

 

ああ、二人には浮気があって、


それが真実(ほんと)を見えなくしちまう。

 

佳い香水のかおりより、


病院の、あわい匂いに慕いよる。

 

(「新編中原中也全集」第2巻より。現代かなに変えました。)

 

 

 

「永訣の秋」は


「在りし日の歌」の中の後半章ですから


この詩に詩人が込めた思いも特別であったことが推測できす。


 

佳(よ)い香水のかおりより、


病院の、あわい匂(にお)いに慕いよる。

――というルフランに

詩人のその思いはあったでしょうが

香水のかおりにも

病院のあわい匂いにも

どちらにも軍配をあげている風でないところに

この詩の面白さはあるようです。

 

1936年(昭和11年)9月の制作と推定されています。

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