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2017年5月 1日 (月)

新川和江・抒情の源流/「睡り椅子」の世界/「愛人ジュリエット」恋の遍在と不在と

 

 

愛人ジュリエット

     ――同じ名の映画によせて――

 

――ジュリエットは薔薇の名

――ジュリエットは船の名

――ジュリエットはミモザの花におうの街角のカッフェの名

 

――ジュリエットは昔はやった小唄の題よ

――いやいや ジュリエットは三年前 “いなせな”船乗りと

   駈落ちしやがった浮気な俺の女房さ

――滅相な ジュリエットは清い乙女のまま 今朝がた昇天した

   私のかわいいひとり娘でございます

――ジュリエットはわたしですがな まだこの通り健在で……

                六十いくつの粉屋の主婦(おかみ)

 

忘却の国をおとづれ

いとしいひとの名を呼ぶとき

そこではすべてがジュリエットであった

にわかに

数知れぬ小鳥ら 群れ集い

樹々たち 囁き交わし

野の草 耳そばだて

海 こんじきに輝きわたり

山はむらさき

そうしてすべてはジュリエットではなかった

 

ジュリエットは影

ジュリエットはさすらう風

ジュリエットは流れ行く雲

 

   ジュリエット ジュリエット ジュリエット!

 

むなしく

あおぞらに谺(こだま)して

くだけ散る恋の名の悲しさ

 

(花神社「新川和江全詩集」所収「睡り椅子」より。現代かなに変えました。編者。)

 

 

この詩の前半部の

――で示された詩行は

映画「愛人ジュリエット」の中の風景や

色々な場面での台詞(せりふ)でしょう。

 

記憶に残ったシーンを

思いつくままに辿って詩行としたものでしょう。

 

六十いくつの粉屋の主婦(おかみ)が

映画に登場したことは

映画を見ていない読者にも想像できます。

 

 

映画のシーンを反芻しているうちに

詩人の感性は誘(いざな)われて

恋人ジュリエットを探して彷徨する男ミシェルに乗り移ります。

 

そういう構造の詩であることは

すぐに理解できることでしょう。

 

 

詩人が映画の中に紛れ込んでいく瞬間が

忘却の国を訪れたミシェルを

登場させたところでやってきます。

 

風景のすべてが

自然のすべてが

ジュリエットであるような錯覚(希望)がミシェルに訪れて――

 

にわかに

数知れぬ小鳥ら 群れ集い

……というところですが

 

樹々たち 囁き交わし

野の草 耳そばだて

海 こんじきに輝きわたり

――と続いて

山はむらさきになり

この時ジュリエットは消えてしまいます。

 

ジュリエットは

はじめから不在であったようでもありますが

この一瞬現われたようでもあります。

 

――として。
 

でも

それに確かに触れたかのように

映画(=詩)の主人公ミシェルは

ジュリエットの名を呼びつづけます。

ジュリエットは

なんととらえどころのない(肉体のない)

エーテルのようなものであったか。

 

 

映画の中の恋に

詩人の恋がシンクロしたのかどうか。

 

恋の名の悲しさ

――の体言止めが

余韻を打ち消すかのようで

ドライな感じがありますが。

 

確かに探し当てたはずのジュリエットは

つかんだその時に消えてしまうという

あまりにも儚(はかな)い存在でした。

 

まるで映画館を出る時に

映画のシーンの中からいまだ脱け出ていない観客が

たったいま見つけた愛(=ジュリエット)を失うまいと

外の景色になじめないでいるみたいな

満ち足りていてかなしくて――。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 

 

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