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2017年6月10日 (土)

中原中也生誕110年に寄せて読む詩・その31/「冬の夜」

 

 

 

「湖上」の次に配置された「冬の夜」ははじめ

昭和8年(1933年)1月30日付けの

安原喜弘宛書簡に同封されていた詩篇です。

 

この前日の書簡(29日付け)もあり

詩人は28日夜の銀座での飲み会にふれて

自らを「一人でカーニバルをやっていた男」と記し

同行していた親友、安原へ

反省とお詫びの言葉を書き送るとともに

この詩を同封しました。

 

 

冬の夜

 

みなさん今夜は静かです

薬鑵(やかん)の音がしています

僕は女を想(おも)ってる

僕には女がないのです

 

それで苦労もないのです

えもいわれない弾力の

空気のような空想に

女を描(えが)いてみているのです

 

えもいわれない弾力の

澄み亙(わた)ったる夜(よ)の沈黙(しじま)

薬鑵の音を聞きながら

女を夢みているのです

 

かくて夜(よ)は更(ふ)け夜は深まって

犬のみ覚めたる冬の夜は

影と煙草と僕と犬

えもいわれないカクテールです

 

   2

 

空気よりよいものはないのです

それも寒い夜の室内の空気よりもよいものはないのです

煙よりよいものはないのです

煙より 愉快なものもないのです

やがてはそれがお分りなのです

同感なさる時が 来るのです

 

空気よりよいものはないのです

寒い夜の痩せた年増女(としま)の手のような

その手の弾力のような やわらかい またかたい

かたいような その手の弾力のような

煙のような その女の情熱のような

炎(も)えるような 消えるような

 

冬の夜の室内の 空気よりよいものはないのです

 

(「新編中原中也全集」第1巻より。現代かなに変えました。)

 

 

「冬の夜」が

このカーニバルの興奮冷めやらぬ間に

書かれたものであることが分かりますが

詩は幾分か酔い覚めの気分を残しつつ

祭りの後の深い孤独感がにじみでる内容になりました。

 

 

「湖上」の次に配置されているのは

それなりの意図があることでしょう。

 

「冬の夜」は

「湖上」と表裏(おもてうら)の関係にある作品であるのがわかります。

 

僕は女を想(おも)ってる

僕には女がないのです

 

――という心境(状況)が底にあります。

 

両作品ともに

この心境に真正面から向かった結果

異なる表現に至ったと言ってよい詩です。

 

 

中原中也は

銀座の酒場に出かける先々で喧嘩が起こり

その喧嘩も

中也が吹っかけては

相手に殴られることが多かったものだったらしい。

 

「ウインザー」や「エスパニョール」といった

銀座の酒場での「一人カーニバル」については

安原喜弘のほか

青山二郎らの目撃証言があり

いまや伝説になっています。

 

 

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