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2017年6月27日 (火)

中原中也生誕110年に寄せて読む詩・その44/「或る夜の幻想(1・3)」再

 

 

「或る夜の幻想(1・3)」が

昭和12年(1937年)の「四季」3月号に

発表されたのには

相当の理由があったことでしょう。

 

この詩ははじめ全6節でした。

 

第1節、「彼女の部屋」

第2節、「村の時計」

第3節、「彼女」

第4節、「或る男の肖像」

第5節、「無題――幻滅は鋼(はがね)のいろ。」

第6節、「壁」

――という構成でしたが

「在りし日の歌」には

第2節、第4、5、6節が

「或る男の肖像」として収録されただけでした。

 

元の詩の

男の物語だけが「在りし日の歌」に収録され

女の物語が省略されました。

 

「或る夜の幻想(1・3)」に現われる彼女は

長谷川泰子に違いありませんが

昭和12年(というのは詩人が亡くなる年です)に

歌われていたということは驚きです。

 

 

或る夜の幻想(1・3)

 

    1 彼女の部屋

 

彼女には

美しい洋服箪笥(ようふくだんす)があった

その箪笥は

かわたれどきの色をしていた

 

彼女には

書物や

其(そ)の他(ほか)色々のものもあった

が、どれもその箪笥(たんす)に比べては美しくもなかったので

彼女の部屋には箪笥だけがあった

 

  それで洋服箪笥の中は

  本でいっぱいだった

 

   3 彼 女

 

野原の一隅(ひとすみ)には杉林があった。

なかの一本がわけても聳(そび)えていた。 

 

或(あ)る日彼女はそれにのぼった。

下りて来るのは大変なことだった。

 

それでも彼女は、媚態(びたい)を棄てなかった。

一つ一つの挙動(きょどう)は、まことみごとなうねりであった。

 

夢の中で、彼女の臍(おへそ)は、

背中にあった。

 

(「新編中原中也全集」第1巻より。新かなに変えました。)

 

 

この詩の彼女は

長谷川泰子を実際のモデルにしながら

詩の中に現われた途端に

何か血の流れる身体というよりも

どこかしら作り物めいた人工的なイメージさえするのは

詩に現れる女性が

もともとシュール(超現実的)に描かれているからでしょうか。

 

人によって受け止め方は違うのでしょうが

妙に不思議な存在感があります。

 

 

或る日の夜の幻想ですから

そうなるのだとしても

遠い日の恋(そしてその終わり)を

フィクションに仕立てられるほど

手なずけることができたからかもしれません。

 

それにしてもどこかしら

彼女は遠い存在のようです。

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