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2017年8月27日 (日)

新川和江とその周辺/「始発駅」のころ・1953年の詩人たち/秋谷豊⑧

 

 

立ち止まったり

先を急いでみたり。

 

そぞろ歩きは

気ままでありながら

興が乗れば、ささいなことにもひっかかり

あれもこれもと気が惹かれ赴くままに

どこへでもふらふらと出かけます。

 

何でもよいというのではなく

惹かれるものに一定の物差しはあるようです。

 

ゲンダイシ――。

 

 

秋谷豊が

活動の拠点を「地球」に定めたころ

詩壇の公器を目ざした「詩学」は

いよいよ活況を呈し

多くの若き詩人たちが詩学研究会に参加します。

 

木原孝一は

「詩学」の主宰者側(編集)にあり

この詩学研究会を企画、

さまざまな詩人たちと交流しました。

 

新川和江は「詩学」には参加しませんでしたが

「睡り椅子」発行の後

「詩学」が広告を出すことになり

木原孝一と面識を得ることになります。

 

 

ここで、新川和江が

「地球」に寄せた作品をもう一つ読みましょう。

 

「睡り椅子」発行の2年先になりますが

自筆年譜1955年の項に、

 

3月、「孤独な出発」を「地球」16号に書く。

――と詩人は記しました。

 

この詩を読みたくなるのは自然の流れでしょうから。

 

 

孤独な出発

 

若い駿馬を連れ出すには骨が折れる

好きなスカンポやチモシーの繁茂する牧場のにおいを

彼は忘れはしないので

代赭いろの土も露わな丘にさしかかると

やにわに飛び上り

狂熱的な素早さで逃げ戻ってしまうからだ

 

若い駿馬を捕えるには息がきれる

貪婪なにんげんの 脂にまみれた手綱など

彼はいまだに身につけていないので

この青々とした牧草地帯は

おのれの所有地

飼われるものの卑屈さで項垂れたりはせぬからだ

 

若い駿馬を眠らせるには注意が要る

星々がいつもの位置で輝きを増し

すこし魯鈍な牧夫頭が

鼻唄まじりで見廻りを教えても

牧舎の片隅

昨日に変るつめたい風が

鬣を吹き分けて通るのを

磨かれた皮膚でするどく感知するからだ

 

馬は眠らない

馬はよっぴで考える

厩の土間を

時折いらだたしげに踏み鳴らすのはそのせいだ

 

やがて

あけがたの最初の光が彼の額を射抜くとき

ただひとり 若い駿馬は出発する

白銀の山巓めざし

みずからの意志もて進む者の

倨傲なまでに美しいすがたを

逆光のなかにくっきりと浮き立たせながら

 

(花神社「新川和江全詩集」所収「絵本『永遠』」より。)

 

 

秋谷豊が見抜いた

「比喩の美しいひらめき」が

ここにも堂々と歌われていて

息を飲む見事さです。

 

わざわざ年譜の1行に記すには

相当の理由があったからでしょうが

何らの説明も記さないところに

詩人の強さみたいなものがあります。

 

 

若い駿馬に擬せられたのは

きっと詩人そのものということができるでしょう。

 

最終連の「白銀の山巓」は

すでに「冬の金魚」に

「銀嶺の雪」として歌われていることに

懸命な読み手は気づいていることでしょうか。

 

若い駿馬は

にんげんの手綱の思うがままにはならない。

 

明方の陽光にその額を浴びる時

固い誓いを反芻する。

 

あの白銀の山巓にのぼるのだ

いつかかならず。

 

逆光に浮かび上がる駿馬の

神々しいまでの立ち姿を歌い切りました。

 

詩人もまた白銀の山巓を目指すのです。

 

 

詩人は年譜に

「新しい出発」を地球に発表と記した後に

7月、長男博誕生。

――の1行を記しています。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 

 

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