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2017年12月 9日 (土)

新川和江とその周辺/「始発駅」のころ・1953年の詩人たち/木原孝一「音楽」へ・続続

 

関東大震災があったころより

少し時代が進んだ時期――。

 

詩人は

立派な少年に成長しています。

 

 

ひとりの天才が世界一周飛行に成功した

ふたりの無政府主義者が死刑になった

支那の英雄が爆薬で殺された 豪華な専用列車とともに

 

ちいさな鉱石ラジオに耳を押しつけると

木馬館や 水族館のマアチがきこえた

もっと遠くから 飢えた難民の声がきこえた

はるかに遠いところから

三人の独裁者の 空に反響する叫びがきこえた

マイン・カンプ!

 

 

世界1周飛行の成功に世界は湧き

ふたりの無政府主義者が処刑され

中国の英雄が爆薬で殺された

――という歴史的事件がこんどは呼び出されます。

 

いずれも史実とこれら詩行との間には

認識の誤差があるようですが

詩が向かうところの真実は

史実の真相を探るものではありません。

 

 

チャールズ・リンドバーグ

サッコ&ヴァンゼッティ

張作霖

――という、

1920年代後半に

世界中の耳目を興奮させた3つの事件の主人公たち。

 

リンドバーグはアメリカの飛行家。

 

1927年に単葉単発単座のプロペラ機でニューヨーク・パリ間を

ついで1931年には北太平洋横断飛行にも成功したことで知られます。

 

正確にはパリ・ニューヨーク間と北太平洋横断飛行でしたが

詩人はこれを世界1周飛行と記します。

 

ドイツとアメリカの世論を割った政治的事件に

触れることもありません。

 

サッコ・ヴァンゼッティ事件は

アメリカの裁判史上に残る冤罪事件。 

 

サッコとヴァンゼッティは

1927年、電気椅子で処刑されてしまいました。

 

死刑執行後50年を経過し

冤罪であることが証明されました。

 

中国の大軍閥である張作霖は

1928年に日本軍(関東軍)により暗殺されました。

 

 

3つの事件(ニュース)は

歴史的な関係があるものではなく

詩人の記憶に残るものを任意に取り上げたにすぎないことでしょう。

 

世界史に刻まれる大事件への言及であるため

歴史を学習する(読む)姿勢になりますが

詩(人)を見失わないように気をつけねばなりません。

 

 

1927年、1928年は

詩人が小学校の低学年に達したころのことです。

 

ものごころがついた少年が

鉱石ラジオに耳を澄ませている姿が現れます。

 

 

ちいさな鉱石ラジオに耳を押しつけると

木馬館や 水族館のマアチがきこえた

もっと遠くから 飢えた難民の声がきこえた

はるかに遠いところから

三人の独裁者の 空に反響する叫びがきこえた

マイン・カンプ!

 

 

ざーざーとノイズのはげしい

掌(てのひら)に乗るラジオに耳を押しつける少年に聞こえてきたのは

はじめ、浅草あたりの遊技場のマーチか。

 

木馬館も水族館も

見世物小屋などとともに

浅草の遊興の売り物でした。

 

ある日、その歓楽地の雑沓の合間に

難民の声を聞くのです。

 

メリーゴーランドが回転する遥か向うに

少年は3人の独裁者の演説が

天空に反響するのを聞きます。

 

歓呼に迎えられるハイル・ヒトラー!

 

 

戦争を熱望する大衆のうなり声が

ノイズまじりの小さなスピーカーから洩れ出るのです。

 

学校帰りのひとりっきりの時間に聞いてしまった

秘密のようでそれはありました。

 

ふるえる耳の底で

はじめて魔術の声に呼ばれた

その瞬間でした。

 

あるいはそれは

空耳(そらみみ)だったのか。

 

地を潜る蟻の足音だったかもしれないのでした。

 

無数の蟻が地下で立ち働く

轟のような足音が

ハイル・ヒトラーの合唱にかぶります――。

 

 

ここにきて

詩はこの詩の現在にたどり着きます。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

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