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2018年1月14日 (日)

年末年始に読む中原中也/含羞(はじらい)・その2

 

 

詩は

その構造も細部も

どちらも欠けていることは許されませんから

構造が把握できても

細部がわからないというのは

味のない食べ物みたいなものです。

 

だからといって

ここで万事休すということではありません。

 

このような場合にこそ

なんとかして詩を読もうとしないと

詩は遠ざかるばかりです。

 

構造が理解できたことは

詩の半分ほどを理解できたことに等しいはずなのですから

もう一息であるところに立っています。

 

 

風の白くなったある秋の山かげ――。

 

そこで何があったか。

 

椎の枯葉が積もる落窪に

樹々の幹が

大人びて立っていた。

 

樹の幹が大人びているというときの幹は

人間、おそらくは女性を見立てたものでしょう。

 

大人びた女性が

幹々に譬(たと)えられたのです。

 

 

かつての女性は

もっと幼かったという含意がここにありますが

それを見た詩人のこころに

含羞が立ちのぼるところにドラマが潜んでいます。

 

なにがあったのだろう。

 

第2連へ入ると

枝々(えだえだ)へ視線はみちびかれます。

 

幹々は樹木の胴体である部分ですが

枝々は末端にあたる部分で

おのずと空を見上げる格好になります。

 

枝が交差したその空に

悲しげな死児らの亡霊がいっぱいいて

まばたいていたというのです。

 

中也作品に時として現われる

この死児の亡霊は

フランス詩、とりわけアルチュール・ランボーの詩の反映らしい。

 

 

死児が現れまばたきした丁度その時

空の向うの野の上は

“あすとらかん”のあわい縫(ぬ)う 古代の象の夢なりき

――ということ(状態)になっています。

 

ここが最大の謎であるかも知れません。

 

言葉遣いからいっても

夢なりきという述部は

アストラカンと象のイメージが広く知られた物語であるように扱われながら

同時にその夢であると歌っているようで

もう一つすっきりしません。

 

アストラカンの間をぬって象がのし歩いている

――というイメージは

いったい何を語っているのでしょう。

 

死児が宙を彷徨(さまよ)っている映像のつながりに

このアストラカンと象のイメージが現れるのですが

このイメージははるか彼方に実際に見えるのか

それとも夢なのか

これらこの第2連のイメージは

第1連の椎の落窪あたりで起きている幹々のドラマに

どのようにつながっているのかを

見失いそうになります。

 

 

詩はますます混沌としてゆきますが

詩はますます深みを増してゆきます。

 

 

含 羞(はじらい)

        ――在りし日の歌――

 

なにゆえに こころかくは羞(は)じらう

秋 風白き日の山かげなりき

椎(しい)の枯葉の落窪(おちくぼ)に

幹々(みきみき)は いやにおとなび彳(た)ちいたり

 

枝々の 拱(く)みあわすあたりかなしげの

空は死児等(しじら)の亡霊にみち まばたきぬ

おりしもかなた野のうえは

“あすとらかん”のあわい縫(ぬ)う 古代の象の夢なりき

 

椎の枯葉の落窪に

幹々は いやにおとなび彳ちいたり

その日 その幹の隙(ひま) 睦(むつ)みし瞳

姉らしき色 きみはありにし

 

その日 その幹の隙 睦みし瞳

姉らしき色 きみはありにし

ああ! 過ぎし日の 仄(ほの)燃えあざやぐおりおりは

わが心 なにゆえに なにゆえにかくは羞じらう……

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。「あすとらかん」の傍点

は“ ”で表示しました。)

 


次回に続きます。

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