年末年始に読む中原中也/港市の秋
紺青の空は秋の空が一番というのは
観念反応というかパタン認識というか
新年の青天白日も見事なものですね。
こちらの詩は秋天、それも朝陽を歌います。
◇
港市の秋
石崖(いしがけ)に、朝陽が射して
秋空は美しいかぎり。
むこうに見える港は、
蝸牛(かたつむり)の角(つの)でもあるのか
町では人々煙管(キセル)の掃除(そうじ)。
甍(いらか)は伸びをし
空は割れる。
役人の休み日――どてら姿だ。
『今度生(うま)れたら……』
海員(かいいん)が唄(うた)う。
『ぎーこたん、ばったりしょ……』
狸婆々(たぬきばば)がうたう。
港(みなと)の市(まち)の秋の日は、
大人しい発狂。
私はその日人生に、
椅子(いす)を失くした。
(「編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)
◇
上京してまもなく
詩人は恋人泰子を失います。
ひとりぼっちがつづくある秋の日
横浜の埠頭を散策する詩人。
朝早くから港の町を
ふらふらと歩みくたびれて
石段にしゃがみこんで遥かな海を眺めます。
いましがた出合った港市の
なんと穏やか過ぎる光景ばかりであったこと。
ふと、自分に入り込めない景色であることに
気づいてしまいます。
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