年末年始に読む中原中也/春
新年の朝一番
トイレの窓から外を見ると
白い光に満ちた空です。
これが2018年1月1日の空だ。
眠りからまだ覚めていなくて
常とは違う神妙さがあるのは
なんだかおかしいですけれど
晴れてうれしい新年の朝です。
◇
春
春は土と草とに新しい汗をかかせる。
その汗を乾かそうと、雲雀(ひばり)は空に隲(あが)る。
瓦屋根(かわらやね)今朝不平がない、
長い校舎から合唱(がっしょう)は空にあがる。
ああ、しずかだしずかだ。
めぐり来た、これが今年の私の春だ。
むかし私の胸摶(う)った希望は今日を、
厳(いか)めしい紺青(こあお)となって空から私に降りかかる。
そして私は呆気(ほうけ)てしまう、バカになってしまう
――薮かげの、小川か銀か小波(さざなみ)か?
薮(やぶ)かげの小川か銀か小波か?
大きい猫が頸ふりむけてぶきっちょに
一つの鈴をころばしている、
一つの鈴を、ころばして見ている。
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)
◇
この詩の実際の季節は
新年ではありません。
雲雀の鳴く春ですが
自らに贈る気持ちを込めて
読んでおこうと
毎年毎年、浮んでくる頌歌です。
たまには
自分への贈り物も悪くはないでしょう。
中也も自身に贈った歌かも知れませんよ。
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