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2018年1月23日 (火)

年末年始に読む中原中也/含羞(はじらい)・その8

 

 

 

含 羞(はじらい)

        ――在りし日の歌――

 

なにゆえに こころかくは羞(は)じらう

秋 風白き日の山かげなりき

椎(しい)の枯葉の落窪(おちくぼ)に

幹々(みきみき)は いやにおとなび彳(た)ちいたり

 

枝々の 拱(く)みあわすあたりかなしげの

空は死児等(しじら)の亡霊にみち まばたきぬ

おりしもかなた野のうえは

“あすとらかん”のあわい縫(ぬ)う 古代の象の夢なりき

 

椎の枯葉の落窪に

幹々は いやにおとなび彳ちいたり

その日 その幹の隙(ひま) 睦(むつ)みし瞳

姉らしき色 きみはありにし

 

その日 その幹の隙 睦みし瞳

姉らしき色 きみはありにし

ああ! 過ぎし日の 仄(ほの)燃えあざやぐおりおりは

わが心 なにゆえに なにゆえにかくは羞じらう……

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。「あすとらかん」の傍

点は“ ”で表示しました。)

 

 

後半連に来て

またも熟読玩味(じゅくどくがんみ)を迫られるのは

 

その日 その幹の隙(ひま) 睦(むつ)みし瞳

姉らしき色 きみはありにし

――と

ああ! 過ぎし日の 仄(ほの)燃えあざやぐおりおりは

――という詩行です。

 

その日 その幹の隙(ひま)

――のその日は

詩の冒頭の

秋 風白き日

――を受けているものと読んでよさそうですから

時間は継続して流れていると想定して

幹々の間(隙)で逢い引きしたその日その時

睦みあった瞳は

姉らしい色を帯びていたと読むことができます。

 

きみという親称で呼ぶ相手は

恋人以外にはないはずですから

長谷川泰子のイメージが結ばれることはごく自然です。

 

 

ああ! 過ぎし日の

――というのは

その逢い引きが遠く過ぎ去った日のものであっても

確かに在ったその日のことだったのだ! という在りし日を歌います。

 

その日は単に過ぎ去った日であるよりも

確かに存在した日(在りし日)であった

 

在りし日に

仄(ほの)燃えあざやぐおりおりは

確かにあったのだ。

 

その日々を思い出すと

心はなぜこのように羞らうのだろう……

 

 

このようにして――。

 

第1連の

幹々(みきみき)は いやにおとなび彳(た)ちいたり

――は第2連の

死児等の亡霊やアストラカンのあわい縫う古代の象の夢を導きます。

 

第3連の

幹々(みきみき)は いやにおとなび彳(た)ちいたり

――は第4連の

過ぎし日の仄(ほの)燃えあざやぐおりおりを導きます。

 

 

「含羞(はじらい)」は

主旋律の一つに

二人の弟の死を

もう一つの主旋律に

永遠の恋人、長谷川泰子への愛を歌いました。

 

 

……とここまで書いて

秋 風白き日の山かげなりき

――と限定された場所で

長谷川泰子と詩人が逢い引きしたという想定はおかしいと考え直し

中也に「初恋集」中の「むつよ」という詩があるのを思い出しました。

 

 

むつよ

 

あなたは僕より年が一つ上で

あなたは何かと姉さんぶるのでしたが

実は僕のほうがしつかりしてると

僕は思つてゐたのでした

 

ほんに、思へば幼い恋でした

僕が十三で、あなたが十四だつた。

その後、あなたは、僕を去つたが

僕は何時まで、あなたを思つてゐた……

 

それから暫(しばら)くしてからのこと、

野原に僕の家(うち)の野羊(やぎ)が放してあつたのを

あなたは、それが家(うち)のだとしらずに、

それと、暫く遊んでゐました

 

僕は背戸(せど)から、見てゐたのでした。

僕がどんなに泣き笑ひしたか、

野原の若草に、夕陽が斜めにあたつて

それはそれは涙のやうな、きれいな夕方でそれはあつた。

         (一九三五・一・一一)

 

 

何かと姉さんぶる女性、むつよがまた謎の人物ですが

初恋のころを思い出して

含羞が立ちのぼってくる気持ちなら

よりすんなりと心に落ちて來ることですから

そう読み直すのもよいかもしれません。

 

 

今回でこの項を終わります。

 

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