年末年始に読む中原中也/冬の明け方
朝の6時なのに眠いというのは
いかにも中也らしい本音ですね。
深夜に詩を書いたり
書物を読んだりしているわけですから。
そこのところを押さえておかないと
頭も眠いというのを理解できません。
◇
冬の明け方
残(のこ)んの雪が瓦(かわら)に少なく固く
枯木の小枝が鹿のように睡(ねむ)い、
冬の朝の六時
私の頭も睡い。
烏(からす)が啼(な)いて通る――
庭の地面も鹿のように睡い。
――林が逃げた農家が逃げた、
空は悲しい衰弱。
私の心は悲しい……
やがて薄日(うすび)が射し
青空が開(あ)く。
上の上の空でジュピター神の砲(ひづつ)が鳴る。
――四方(よも)の山が沈み、
農家の庭が欠伸(あくび)をし、
道は空へと挨拶する。
私の心は悲しい……
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)
◇
烏(からす)が啼(な)いて通る――
庭の地面も鹿のように睡い。
――というあたりは
眠いことが想像できれば
ついていけますね。
◇
やがて薄日(うすび)が射し
青空が開(あ)く。
上の上の空でジュピター神の砲(ひづつ)が鳴る。
――というあたりも
朝がおとずれて
空に青が広がり
お天道様(おてんとうさま)が世界を支配しはじめるころの
無敵の神々しさをバッチリとらえた
見事な表現です。
ズドンパチパチという音が
本当に聞こえてくるかのようなお出まし!
今ごろの太陽の現れ方を
早朝に起床する人ならば
拍手喝采したくなりますよ。
朝の6時なら
木星と火星が大接近したのを中也も見たかもしれません。
◇
ところが
この詩が歌うのは
人の知らない悲しみです。
今日のところは
その謎解きはやめておきます。
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