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2018年1月 8日 (月)

年末年始に読む中原中也/朝の歌

 

 

いつ読んでも

同じような感慨に導かれる詩というものがあり

この詩は中也の詩のなかでも

それを安定と呼ぶならば

もっとも安定感のある詩といえるでしょうか。

 

数次にわたる推敲の経歴をもつ詩であり

自作年譜「詩的履歴書」に、

「朝の歌」にてほぼ方針立つ。

――と自ら記した

記念碑的作品です。

 

 

朝の歌

 

天井に 朱(あか)きいろいで

  戸の隙(すき)を 洩(も)れ入(い)る光、

鄙(ひな)びたる 軍楽(ぐんがく)の憶(おも)い

  手にてなす なにごともなし。

 

小鳥らの うたはきこえず

  空は今日 はなだ色らし、

倦(う)んじてし 人のこころを

  諫(いさ)めする なにものもなし。

 

樹脂の香(か)に 朝は悩まし

  うしないし さまざまのゆめ、

森竝(もりなみ)は 風に鳴るかな

 

ひろごりて たいらかの空、

  土手づたい きえてゆくかな

うつくしき さまざまの夢。

 

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)

 

 

記念碑的作品ですから

その制作エピソードは多彩ですし

興味深い事跡に充ちていますし

それゆえ詩の外部に関心は引っ張られがちな詩でもあります。

 

たまには肩の力を抜いて

詩そのものを味わいたいものですが

青春彷徨の真っただ中のある日の

語らいくたびれ飲み疲れたからだを

誰だか友だちの部屋へ運びこんだ暗がりが明けた朝の

雨戸を洩れ入る陽光の赤々と燃えるのを見あげる寝床の感触が

いまもここに残っているような思い出は鮮烈で

この詩がそれを歌っているのは

他人ごとではなく親しいものでありますから

この詩のエピソードはまた懐かしいことです。

 

 

手にてなす なにごともなし……。

 

時は

そこに止まっているかのようです。

 

止まったまま

戻って来ません。

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