年末年始に読む中原中也/早春の風
大寒波が関東地方にもやってきましたが
このころになると
これが頂点なのだから
春の訪れも間近なことを感じるようになりますね。
もちろんまだ一度や二度や
大雪の降ることはあるのでしょうが
蝋梅(ろうばい)が咲きこぼれ
紅梅の香が住宅地のどこからともなく洩れ匂うのに出くわしては
胸のふくらむ心地を止(とど)めることはできません。
◇
早春の風
きょう一日(ひとひ)また金の風
大きい風には銀の鈴
きょう一日また金の風
女王の冠さながらに
卓(たく)の前には腰を掛け
かびろき窓にむかいます
外(そと)吹く風は金の風
大きい風には銀の鈴
きょう一日また金の風
枯草(かれくさ)の音のかなしくて
煙は空に身をすさび
日影たのしく身を嫋(なよ)ぶ
鳶色(とびいろ)の土かおるれば
物干竿(ものほしざお)は空に往(ゆ)き
登る坂道なごめども
青き女(おみな)の顎(あぎと)かと
岡に梢(こずえ)のとげとげし
今日一日また金の風……
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。新かなに変えてあります。)
◇
第2連に、
女王の冠
かびろき窓
――とあり
最終連に、
青き女(おみな)の顎(あぎと)
――とあるなど
この詩にも謎のような詩語が見られますが
実生活のなかに類例を探そうとすると
混乱を招くかもしれません。
すんなりと詩世界に入り込んでしまうほうが
勝ちです。
◇
すでに「春の夜」(山羊の歌)には
かびろき胸のピアノ鳴り
――の詩行がありましたから
この流れに沿う女性を思い浮かべることも可能でしょうし
青き女は
「青い瞳」(在りし日の歌)や
「六月の雨」に現われる女性のような存在を思い出すことも可能でしょう。
あるいは
「含羞(はじらい)」に
幹々は いやにおとなび彳(た)ちいたり
姉らしき色 きみはありにし
――とある姉の流れの女性を想起してもおかしくないかもしれません。
この女性がだれであるかと
実人生に探そうとする努力を否定するものではありませんが
詩の中の存在は詩の中でそれだけでも生きていますから
その正体が特定できなくても
十分に味わうことができるのですから
無駄な抵抗はやめれば
詩のなかに入っていけるというものです。
◇
それにしても
青き女とはよくぞ言ったものですね。
金の風
銀の風
鳶色(とびいろ)の土
――とならべて
青き女です。
ますます謎が深まるではありませんか!
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