中原中也・詩の宝島/ジュピター神の砲(ひづつ)/「冬の明け方」その3
「冬の明け方」の第3、4連に、
四方(よも)の山が沈み、
農家の庭が欠伸(あくび)をし、
道は空へと挨拶する。
――とあるのは
次第に朝が広がっていく様子を
遠景から近景へと展開する
実はリアルで緻密な描写であることに気づくでしょうか?
◇
第1連と第2連では
陽射しの出る前のそれを
擬人法をまじえて
こちらもリアルに描写していますね。
描写といっても
写実のことではありませんが。
残(のこ)んの雪 は、少なく固く
枯木の小枝は、(鹿のように)睡い
私の頭も、睡い
烏(からす)は、泣いて通る
庭の地面は、(鹿のように)睡い
林は、逃げた
農家は、逃げた
空は、悲しい衰弱
――という具合。
◇
青空が開けて
鳴り響くのが
ジュピター神の砲(ひづつ)です。
太陽は
姿形(すがたかたち)を見せずに
音として登場します。
この音は
聞こえない音、沈黙の音楽(佐々木幹郎)です。
陽の光は
ジュピター神の号砲=音が鳴り響くかのようにして
自ずと射しはじめるのです。
このように
山、農家の庭、道……と
あたりに朝が訪れますが
私の心は悲しいのです。
◇
今回はここまで。
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